小さな冒険⑤

「図書室!といえば琉伽様は元気ですか?」


「元気だよ、相変わらず本ばっか読んでっけど」


「それは良かった。初等部の頃はよくここで琉伽様と庵様が一緒に本を読んでいましたね。また機会があれば琉伽様もお顔を見せに来て頂けると嬉しいとお伝え下さい」


「伝えとくよ!ありがと、ゼツさん」


その後絶の案内で庭園内をぐるっと回った。

絶は翼が気になった植物を詳しく説明し、四人でワイワイと楽しい時間を過ごす事ができた。

翼は久しぶりに少し笑えた気がした。


「笑ってる」


「ん?」


「翼だよ、ほら」


絶の植物の説明を聞きながら笑って会話する翼の姿。【リデルガ】に来て、あんな表情を愁はみたことがなかった。

知らない世界に連れてこられたのに翼はいつも落ち着いていて目の前で何が起きようと反応が薄かった。

御影と琉伽が翼を連れて【リデルガ】に帰ってきた時琉伽の胸で寝ている翼を見て人形みたいだと思った。

寝ているからそう思うだけなのかと思ったが、翼は表情があまりなかった。

分けもわからない世界に連れて来られたのに、泣きも喚きもしない。

【学園】で襲われた時も、怖い思いをしたのにも関わらず表情は変わらなかった。


そんな翼が微笑んでいた。

まだ出会って間もないのになんだかその姿が妙に嬉しかったのだ。


その光景を眺めていると…


「頬、緩んでる」


庵に指摘された。


「え」


自分のほっぺを片手で包む。


「まあ、良かった」


庵がポツリと呟いた。

表情が変わらないのは庵も同じだ。


『俺達は将来この『リデルガ』を任されているようなヴァンプだ、普通お前のようなダンピールが一緒にいていいようなヴァンプじゃないんだよ、俺達は』


口ではあんな事を言うが、少し安心していたのがその横顔から分かった気がした。

御影が海偉に言ったように【リアゾン】にいる方が危険だからという理由だけで翼を【リデルガ】に連れてくるはずかない。

もっと他の何か理由があるに違いない。

あの御影だ。きっと何かあるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る