小さな冒険③

「だはははっ、それは…くく、それはなっ」


愁は涙が出るほど笑い、


「俺は言わないぞ、愁が言え!」


顔を赤くして言う庵にやっぱり聞いてはいけなかったんだと少し後悔する。


「なんでお前、命令口調なんだよ!てか言っていいのかよ、だっは、ははっ」


でも…凄く気になる…。


「風呂っ」


「お風呂?」


「そう、ガキの時に六花の6人で大浴場行ってさ、そん時。ひひっ、あ~ダメだ。思い出すだけで笑える、腹いてーっ」


チラッと庵を見ると相変わらず、そっぽ向いている彼。少し長めの黒髪から覗く耳は赤く染まっている。


「琉伽も男湯に入ろうとするもんだから、庵が『琉伽ちゃんあっちだよ』っつてな、そこで男だって気づいたってわけ。可愛かったよな~」


「もういいだろ、このくらいで」


「その後、ショックで庵、知恵熱出して寝込んでさ」


「愁っ!」


愁は笑い涙を指の端で拭う。


「ほんと、あん時は毎日が楽しかったよな」


そう言った愁の横顔は少し寂しそうだった。

庵も愁の言葉には何も返さなかった。


「着いた!あそこ!」


愁が指さすのは丸い形の…


「温室庭園」


横にいた庵が呟く。

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