リデルガ⑳

『お母さん!お母さん!』


『なあに?つばさ?』


小さな小さな記憶…。


つばさを抱きかかえ優しく微笑む若き日の母親の姿。そんな穏やかな優しい記憶が微かに蘇る。



「…ぅ、ふっ……」



唐突に溢れ出す涙。

もう帰れない住み慣れた家。

つばさは腕に顔を埋め静かに泣いた。

御影みかげつばさが泣き止むまで何も言わずずっと隣にいた。


そんな記憶忘れていたかった。その方が苦しくないから。思い出せば出すほど悲しくなるから。忘れた事にして、そっと閉まった。もう思い出さないように厳重に鍵をかけて…。











静かに泣き出すつばさを横に暗闇を照らす月を眺める。愛しているとかいないとか、本当のところは分からない。人は簡単に嘘をつく。

けれど、つばさの母親のあの時に言葉だけは嘘ではなかったと信じたい。

琉伽るかに記憶を消される前に微かに動いた唇。



つばさをお願いします』


愛する娘を【リデルガ】に連れていかれ、娘に関する記憶も消されるはずなのに『お願いします』だなんて…。普通はもっと抵抗してもおかしくない…なのにあの冷静さに状況を飲み込む早さ…。


-彼女の母親は一体…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る