リデルガ⑪

その瞬間

ドガーンッという衝撃音と共に翼の首を絞めていた男子生徒が目の前から姿を消し解放された喉から一気に息を吸い込む。


「げっほ…ごっほ、」


つばさはその場にへたり込む。


「おい、お前何やってんの?」


視線を上げるとそこには、茶色の髪に大きな身体の男子生徒が立っていた。

どうやらつばさの首を絞めていた男子生徒はその茶色髪に蹴りを一発入れられ廊下の先に吹っ飛んでいた。


「げっほ、げっほ」


凄い力で締められていたせいでまだ喉がおかしい。吹っ飛んだ男子生徒が上半身を起こす。


壱夜いちやさん…」


「答えろよ、お前何やってた?」


「……えっと、」


「あ?」


「…そ、その女、人間っす!壱夜いちやさん!人間がなんで!」


その瞬間その場の空気が変わり凍り付いた。


-バレた…?


つばさの心臓もどんどん脈が早くなる。


「お前まじでそんなこと思ってんの?」


「だ…だって、匂いが…」


「あのなあ、俺らがここに人間入れるわけねーだろ。舐めてんのか」


「っひ」


壱夜いちやとが睨みを利かすと尋常じゃない怖がり方をする男子生徒。

つばさ壱夜いちやの殺気にやられ、身体の震えが止まらない。


「っち、もういい。行け」


男子生徒は身体が震えて腰を抜かしている。


「聞こえてねーのか?」


その脅しでその男子生徒はもの凄いスピードで這いずりながら廊下を走っていった。


「けっほ…」


「大丈夫か?」


壱夜いちやが屈みこみつばさの顔を覗く。

先程の衝撃音により、なんだなんだ?と生徒達が集まってくる。


「けっほ、うん。大丈…夫、けっほ」


つばさちゃーん!!??」


すると数人の人をかき分け真理愛まりあが走ってくるのが見えた。


「どうしたの!?何があったの!?大丈夫!?」



慌てふためく真理愛まりあの後ろから御影みかげとほんのり赤毛の男が小走りでやってくる。

御影みかげつばさの姿を見るなり少し目つきが鋭くなった。


「…真理愛まりあ


御影みかげがボソッと真理愛まりあの名前を呼んだ。

それが合図となり、真理愛まりあの目がすぅーっと赤く染まる。


「うん。つばさちゃん、ちょっと首触るね」


真理愛まりあつばさの首に触れる。

真理愛まりあが触ったところがじんわり温かくなり、緑色の光に包まれる。

息苦しかった喉が苦しさを緩和していく。


「これで大丈夫、ごめんね。私も一緒にいけばよかった…」


今にも泣き出してしまいそうな顔でつばさを抱きしめる真理愛まりあ


「なに?なに?」


「喧嘩?」


まだまだ集まってくる生徒達。


「クンクン」


壱夜いちやつばさに顔を近づけ匂いを嗅ぐ。

急に近づいた壱夜いちやにビクッと反応するつばさ


「…確かに、ちょっと匂いがなあ~。本当に微かだけど…」


「なに?壱夜いちや?」


「さっきの男、つばさのこと人間だって言って手出したんだよ」


「え…そういうこと?」


真理愛まりあ壱夜いちやからつばさに視線を変えてまたぎゅっと抱きしめてくる。


「あら~そういうことかよー、しゃーねーなあ。吸血種の中には人間が嫌いなやつもいるからな」


いつの間にか壱夜いちや真理愛まりあの他に赤髪の男がつばさの隣に立っていた。

赤毛の男は頭をぼりぼり掻きながら少し離れた所へと移動しおいでと手招きする。

つばさ真理愛まりあの手を借りて立ち上がり、手招きされた方へ向かう。


ーーシュッ


「うっ」


急な水しぶきの衝撃に目を瞑る。


「これで、OK~」


「わっ、しゅう、何それ~?」


真理愛まりあは赤毛の男 しゅうが持っている小瓶に興味津々。


「ん~?人間の匂いを緩和する香水みたいなやつ~」


「へえ、また変なの作ってやんのー」


「変ってなんだよ、壱夜いちや!役に立っただろ!」


しゅう壱夜いちやと言い合いしている中、真理愛まりあは香水を窓から指す陽の光に当て「キラキラ~」とかなんとか言っている。本当に自由だ。

御影みかげつばさをじーっと見つめ、寄ってくる。

そしてつばさの首元に顔を近づける。


「うん、もう大丈夫」


そう言ってつばさの頭をポンと撫で


壱夜いちやしゅう。行くよ」


「はいはい、とその前に俺 観月かんげつしゅう、こいつが鴎外おうがい壱夜いちや


「よろしく!!」


壱夜いちやはニコッと笑って片手を上げる。


「…よろしく」


「これから会うこと多いと思うから。あ!ちょっ御影みかげ待てよ!んじゃな、つばさ!っとそれと」


しゅうは人だかりが出来ている方に向かって言った。


琉伽るか~、よろしく」


そう言い残しにこっと笑って三人はどこかに行ってしまった。

愁が声をかけた方向には人だかりの一番後ろに背の高い薄いグレーの髪が揺れるのが見えた。いつからいたかのか、気配が全くなかった。

しゅうの声に生徒もバッと後ろを向く。

そこには琉伽るかの姿があった。そこにいた全員が琉伽るかに釘付けになってしまう。

時間が止まったように誰もが琉伽るかから目が離せなかった。

そしてつばさの視界は一瞬にして真っ暗になる。

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