リアゾン④

そして一日が始まった。

【リデルガ】のふたりは教室の1番後ろに席を設けられ大人しく授業を受けていた。

一限から二限、二限から三限と時間が進んでいくが【リデルガ】のふたりが気になるのかクラスの生徒たちはそれはもうソワソワと落ち着かない様子だった。

それはもう生徒だけではなく、先生たちも例外ではなかった。

何百年も交流を避け続けた両国にとってお互いの存在は珍しいもので、特に【リデルガ】のふたりはとても美しかったからだ。


つばさはある歴史の授業で先生が言っていた事を思い出した。


『このような言い伝えがたります。吸血種ヴァンパイアはそれはそれはとても美しい容姿をしており、人間種を惑わせ吸血行為に及んでいたといわれています。』


今【リデルガ】のふたりを見てつばさは確信した。

あの言い伝えは本当だろうと…。


そんな事を考えボーッと授業を受けていると甘い香りがつばさを襲った。


-この匂い…


「…いたっ」


その瞬間隣の凜々りりが声を上げた。

凜々りりは自身の指先をぎゅっと掴みティッシュを丸め指先に当てる。

どうやらプリントの端で指を切ってしまったようだった。

つばさと目があった凜々りりは「切っちゃった」と小声で話す。

ティッシュがどんどん赤く染め上げられていく。

少し深く切ってしまったようだ。


つばさの脈はどんどん早くなる。

息遣いも早くなるのが分かる。


-落ち着け!落ち着け!


心の中で必死に落ち着けようとするが、それとは裏腹にどんどん呼吸が乱れる。

甘え香りに美味しそうな赤…。

身体が熱くなっていく…。

広がる血の匂い、つばさは正気を保つため、手首に爪を這わせる。


「…先生」


その低い声にクラスの全員が反応した。

声を発したのは御影みかげだった。


「怪我してますよね?凄い匂い」


御影みかげ凜々りりに向かって話す。


「…えっと、」


口ごもる凜々りりに対し、御影みかげは言葉を続ける。


「先生、僕たちは吸血種ヴァンパイアです。今、この教室はどうも僕たちとったら刺激が強すぎる」


「…ぁ、」


「【リアゾン】の学校の雰囲気は分かりました。本当は最後まで今日一日見学する予定でしたが、これじゃあ見学どころではありませんのでこれで失礼致します」


「…ぁあ、はぁ…分かりました」


そう言ってふたりは教室を去って行こうと教室の扉に手をかける。

歩みかけた足を止め御影みかげつばさの方にチラッと視線を向けた。



「そこの、黒髪ロングの女生徒さん。体調が悪そうだ。保健室にでも行った方がいいじゃないですか?」


そういって不敵に笑った。

その言葉にクラスの全員がつばさを凝視する。

真っ青な顔をしているつばさに先生も驚きを隠せない。


「…どうしたの?顔色真っ青よ?保健室行ってきなさい」


先生のその言葉に甘え、つばさは椅子から腰を上げる。

この教室にいるとどんどん身体が熱くなっていく。もうつばさは限界だった。

小走りで教室から出ていくつばさ

心配そうに見る凜々りりと目が合ったが、それ所ではなかった。

そして、【リデルガ】のふたりが行った方向とは真逆のトイレに向かう為廊下を走った。















つばさが走って行った方向を見つめる御影みかげ


「…御影みかげ?」


琉伽るかが心配そうに聞く。


「…琉伽るか。見つけたかも…」


御影みかげの言葉に琉伽るかつばさの走っていく背中を見つめる。


-やっと、この時がきたのか…


御影みかげはニヤッと笑った。

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