第34話 File.室長報告
【室長報告】
炭疽菌の感染メカニズムと薬剤効用の確認実験において、既存知見とは異なる新たな知見を観測したことから報告する。本件はバイオセーフティにかかる重大事項と懸念されることから、保健所への報告等、今後の取り扱いをお諮りしたい。
〈概要〉
天然痘抗体およびCOVID―19抗体を有する検体に対し、炭疽菌吸入感染モデルを用いた感染経過及び炭疽菌ワクチン投与後の効用観察を行ったところ、サイトカインによる過剰免疫反応を誘発し、検体内炭疽菌に誘導突然変異が生じたもの。
〈詳細〉
トランスジェニックマウス(天然痘抗体保有個体)にCOVID―19ワクチンを接種し抗体獲得をさせた検体に対し、炭疽菌を経鼻吸入させ感染、経過を観察した。
数時間のうちに検体の症状は急激に進展し、呼吸不全を伴う猛烈な衰弱、痙攣、血色素尿が見られ、十二時間で検体は死亡した。検体内から採取したサンプルから培養し同定したところ、病原体は投与炭疽菌とは異なるDNA配列を有していることを確認した。培養した本炭疽菌を通常検体であるアウトブレッドマウスに投与した結果、初期検体と同様の症状を呈し、そのどれもが十二時間以内に死亡した。吸入感染モデルにおける致死率は一〇〇%と推定され、経皮感染および経口感染であっても九〇%近い致死率を確認している。既存ワクチンによる不活性化も現在、効果がみられない。
従来炭疽菌に比べ強い感染力と致死性、薬剤耐性を獲得していると見られ、人体への影響は不明であるものの、本病原体については感染症法第六条に定義される新感染症の病原体に相当するものと思慮する。
〈ご相談事項〉
本件資料および病原体サンプルについてはバイオセーフティルームにて保管中。感染症法に則り、保健所へ通知を行う計画である。そのほか、防疫、安全衛生上の懸念も想定されることから、研究資料一式およびサンプルの厳重管理の措置と、自治体ないし厚生労働大臣報告に向けた報告準備に取り掛かりたい。
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