第33話 隠された研究
専門用語に目が上滑りして、そこで読むのを止めてしまった。
炭疽菌による実験の記録らしかった。具体的な内容はほとんど分からないが、炭疽菌に感染したマウスの状態を調べていたようだ。ページを捲っていくと、実験の経過が翌日、翌々日に渡って書かれていた。
「父さんの研究日誌……だよね。ぼくが読んでもほとんど分からない。でもこんなの、ここの人たちが読んだらすぐわかることなんじゃない?」
「一番最後のページを見て」
マユミさんはぼくを無視して、急かした。言われた通り、ぼくはノートをぱらぱらと飛ばして、最後のページを見る。
そのページには、またつらつらと実験の内容と結果が書かれていた。ページの最後には、次回から条件を変更して追加実験を行う、とあった。その次のページは、ページの綴じ目から破かれたようで、その痕跡だけが残されていた。
「ノートだけじゃないわ。電子デバイス、研究所のVPNサーバ上のデータファイル、バックアップサーバ、その全てから、物理的あるいは電子的に、比米島孝一郎が研究データを消し去った。私たちの手元に残っているのは」
背後にいたマユミさんは、ぼくの横に歩み出て、机の上に置かれているクリップで閉じられた紙の束を掴んだ。それをぼくに手渡す。
「この報告だけよ」
その紙の束は数十枚はあるだろうか、表紙には文書作成ファイルでA4サイズの紙一枚に印刷された文字が並んでいた。その冒頭には、室長報告、とあった。
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