外面からは、測れない。

 どうすればいいんだろう、そうクラスのみんなは私に相談してくる。

 何度目だろう、けれどもいつだって私は「わからない」としか返さない。

 当り前じゃないか、どうして自己完結できるものを私に投げる?


 こんな私はこの仕事に向いていないのかもしれない。

 私はこのクラスの相談役、いわゆる人生相談とやらを引き受ける係。


 けれども来るのは「テストの点数が下がった」とか「ちょっと暇だから」とか、しょうもない質問ばかり。


 これはどこまで行っても仕事だったから、残念だけどその中に楽しみなんかなかった。

 

心山むねやまさん。ちょっと、いい?」

「はぁ」

 名前もいまいちピンとこないような……多分クラスメイトなんだろうけど。が私に話しかけてくる。

 私が何かをしたのだろうか、特段思い当たる節もないのに。

「相談、いける?」


 ……ふぅん? 物好きな人もいるものだ。私の対応の雑さなどクラス内で知れ渡っているものだと思っていたのだけれど。

「いけますが、期待しないでくださいよ。私、そこまで丁寧じゃないから」

「いーの、いーの」

 とても軽い調子で返事する君は、今までのしょうもない悩みを抱えてくるクラスメイトよりも、よっぽど悩みなんてなさそうに見えた。

 からかいにきているのだろうか。だったら面倒。大体問題こんな私にちゃちゃなんて入れに来ないでほしい。

「で、どんな悩みがあると」

 どちらにせよ一応はそのあるかもわからない「悩み」とやらを聞いておかねばならないので、私から切り出しておく。

「う~ん? 何だと思う?」

「……ちゃちゃ、入れないでもらえますか。暇ですけど、普通に嫌です」

 もはや反射的に言うと、君は少し悲しそうな顔をした。だまされるものか。自分で言っていても悲しくなるほど暇だけど、他人にからかわれるほうがもっと嫌だ。

「ふぅん」

「何です」

 少し不貞腐れたように目の前の机に突っ伏してこちらを見る君は猫のようで、絶妙に視界に残る。それを何故だか、無視もできなくて。なんだこいつは、これがいわゆるあざといとかでもいう物なのだろうか、なんて思いつつも、放置できずに目もそらせない。


「私さ、自分がいつか壊れるといいって思ってるんだよね。単刀直入に言うなれば」


 君は唐突に切り出した。心臓に悪いったらありゃしない……なんて言ってやりたかったけれども。君の眼を見てから、言えなくなった。私の眼に映った君は、確実にそれは、自分以外の何かに縋ろうとする目だった。

 まさか、本当に? 私は反射的に口を開く。


「いいよ」

 

 思わず口角が上がる。


 改めて自己紹介をしようか。私、心山彩花は最高の面倒くさがりで、怠惰な人間。


 そして、他人の人生が大好きなのだ。


 きっと君なら、私を楽しませてくれるよね。

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自壊衝動な君へ告ぐ 三門兵装 @WGS所属 @sanmon-3

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