1 黄金のコイン

「明日の朝。ここで依頼人に引き合わせてやるよ。今日の所は早く寝ちまいな」

 おばさんの言葉通り、私は早く眠って、暁には起きた。酒場の屋根裏、おばさんに貸して貰ってる埃まみれの小さな部屋が私達の今の宿で、足の折れ掛けたボロボロのベッドにぼろのような毛布を重ねて二人で眠ってる。ベッドは小さくて、とても二人で使えるような広さじゃないんだけれど、狭いなんて思わない。……だって、ラルナいつもいないし。

「はぁ……」

 今日も寂しいベッドを見つめて、私は深く溜息。

 早起き、なんてわけない。ラルナが私より早く起きるはずがない。ラルナはまだ帰ってないんだ。昨晩、あれからラルナは出掛けた。ちょっと多めに渡した銅貨をじゃらじゃら揺らして、嬉しそうに出掛けていった。どこに行ったのかは知らないけど、ろくな場所じゃないのは確かだ。踊りに音楽、そして、お酒にギャンブル……。

「はぁ……」

 私は大きく溜息。髪を梳かして、服を整え、顔を洗いに下に降りる。暁の酒場はしんと静まり返っていて、鼻を擽る冬の残り香にどこか懐かしい気持ちになった。まだ一ヶ月前。ううん、もう一ヶ月前。あの日はとても寒い夜で、まるで世界全部が凍り付いていて、二度と溶けないんじゃないかって気分がした。だけど、あなたの体温がすぐ傍にあって、それで私は……。

 ガンッ、思わず殴り付けたテーブルの音が当ても無い回想を打ち切った。バカみたいだ。私一人。心躍るときめくような冒険。それを夢見ていたのは、私だけで、今日だってあなたは別に楽しみにもしてなくて……。あなたはどうせ、私なんて、どうでもよくって……。

「いや! そんなことないよ!」

 思わず浮かんできた言葉を慌てて自分で打ち消した。そんなことない。絶対無い。だって、ラルナは全世界を敵に回して私を攫ってくれたんだ。言ってくれたよね。「あの地平の果てまで、攫ってみせる」って……。ラルナは……ちょっと疲れてるだけだよ。魔王を倒して、私を攫って、そして世界から追われて……。だから、今は休憩中。きっといつか前向きになってくれる。ううん、私がそうするんだ。あなたが私を幸せにしてくれたように、私があなたを幸せにするんだ。

 心躍るような冒険、胸がときめくような旅。あなたに連れ出して貰うばかりじゃない。私があなたを連れ出したっていい。うん、そうしよう。それがいい。

 酒場の裏口をゆっくり開けて、私は裏庭に出る。早起きの小鳥が軒先に連なって、東の空はもう白んでいた。石塀の木戸から路地に出て、井戸を使って水を汲み、それから顔を洗う。冷たい水が体に沁みて、私はぱんっと気合いを入れる。

 私は自由だ。今日はどんな日になるか、誰にだって分からない。あなたのお陰だ。あなたのせいだ。こんな顔はしてられない。

「さあて! ごはんの前に一仕事だ!」


 なのに、あなたって人は……。なのに、ラルナってば! お昼近くになってから、やっと帰ってきやがった!

「ごめんって、心配させて」

「心配なんてしてないから! するもんか! ラルナのバカっ! 夜いないのは別にいい。朝帰りだって構わない。どこで何してたっていいよ。普段なら怒らないよ。だけど、今日は仕事の日なんだよ!?」

 楽しみにしてたのに! 珍しくラルナと冒険者らしいことが出来るって思ってたのに!

「ごめんって。ほんとごめん」

「今日という今日は許さない! 今何時だと思ってるわけ!?」

「10時の鐘がさっき鳴ったね」

「分かってるならとっとと帰ってきなさい!」

「その鐘で目が覚めたんだよ。9時の鐘でも、8時の鐘でもダメだったんだよ。7時でも6時でももちろんダメだよ? 10時じゃなきゃ、いけなかったんだね」

「訳分かんないこと言わないでっ! ラルナのバカっ! アホっ! アンポンタンっ!」

 思い付く限りの罵声を喰らわしてやると、ラルナは流石に反省したのか、しょんぼりとしてた。ふんっ! 今日こそは知らない! バカっ! ボサボサの髪して! またシャツ乱れてるし! 顔も煤汚れてるし!

「あーもう! 早く顔洗ってきなさい!」

「ごめーん!」

「ほら、こっち来て! もうちゃんとしてよ! これから依頼人に会うんだから!」

「あれ? まだ来てないの? え? 間に合ってるなら、わたしなんで怒られた……」

「はぁ!?」

「いたいたいたい……。ちょっと耳千切れる! あっ、ごめんなさい! すいませんでした! あー、ちょっと、ああー!!!」


「はぁー。きもちー!」

「気持ち良い? 良かった」

 お昼前で誰もいない酒場の隅で、ラルナの髪を梳いてあげる。顔を洗って、髪を整えて。ようやくラルナは少しは見れる格好になった。

「もう……。あんなに汚れて、どこで何してたの?」

「聞いてよ、ユーリ!」

 ぐるっとラルナの頭がこっちを向いて、満面の笑みで話し始める。

「昨日勝ったんだよわたし!」

 勝った。ラルナが勝ったと言えば、ギャンブルに決まってる。喧嘩? そんなの勝つとか負けるとか以前にそもそも勝負にもならない。

 珍しい。ほんとに珍しい。ラルナが嬉しそうだから、私は思わず前のめりになる。

「ほんと? よかったね。何で勝ったの?」

「ラチャパンカだよ! 最後に6のぞろ目が出て、わたしが大逆転! 大勝ちしちゃったよ!」

「すごい! よかったね、ラルナ!」

「うんっ!」

 ラルナが嬉しいと、私も嬉しい。あなたの笑顔を見ているとなんだか心が温かくなる。それがギャンブルってのは、ほんとは良くないのかもしれないけど。それでも、ラルナが悲しいよりはずっといいはずだ。

「それで、勝ったお金はどうしたの?」

「飲んじゃった!」

 淡い期待を込めて聞くと、ラルナは笑顔全開で答えた。そっか。まあそうだよね。

「美味しかった?」

「たぶんね! おぼえてないけど!」

「じゃあ意味ないじゃん。……それで、酔っ払って寝てたの?」

「たぶん!」

「風邪引かないでよ?」

「だいじょうぶ! わたし最強だから!」

「最強とか関係ないから。ちゃんと帰ってきてね? まだまだ夜は冷えるし、女の子が道端で寝てたら危ないでしょ?」

「分かってるって」

 分かってるよ、分かってないって。

「ほんっとあんたたち仲良いねー」

 カウンターで頰杖付いたおばさんが呆れた様子でこっちを見てた。

「でしょー? 仲良いんですよー? ねー?」

「バカっ」

「いてっ」

 見返った顔を小突いてやった。

「はい。おしまい」

「ありがと」

 ラルナは跳ねるような勢いで立ち上がって、右手で頭をわしゃわしゃ。もう。今整えたのに。文句を言う間もなく、酒場の出口にすっ飛んでいく。

「来ないねー。依頼人」

 ついさっき帰ってきたくせに。ラルナはもう待ちぼうけ。

「もうすぐ来るさ。待ってな」

 おばさんがカウンターから教えてくれる。

「だってさ。ちゃんとしててよ?」

「分かってるって」

 分かってない。大丈夫かな? おばさんの紹介とはいえ、こんなのらくらぽんこつ冒険者じゃ、いくらなんでも依頼人から断られるかもしれない。

 私は改めて、ラルナを観察した。

 頭髪は鮮やかな赤。前髪は琥珀色の瞳に掛かるくらいで、後ろ髪は肩に触れないくらい。ずっと鋏を入れてないみたいで、全体的に膨らんでいて、なんだか野暮ったい。瞳は大きくて、鼻は高い、よく見ればすごい美形だ。なのに、全然そうは見えない。なんで? と訝ってれば、大きな口が半分開いて、ふわあと生欠伸。やっぱりこの表情のせいだ。緩んだ唇と弛んだほっぺた。あと、やっぱりてっぺんのアホ毛。このせいで、全体的に馬鹿っぽくて、遠目で見ても、あ、アホだ。ラルナだ。って分かる。つまり人格の問題だ。器は良いのに、中身が馬鹿だから、台無しだ。私はぎゅっと唇を摘まんで、それから、パンっと頰を挟み込むように叩いてやった。

「いてっ」

「バカみたいな顔しないで。これから依頼人が来るんだから」

「こういう顔なんすよ」

「賢そうにしてて」

「でも、バカなんです」

「賢くなって」

「無茶言わないでよ」

 顔はもう無理だ。パーツはどれも完璧なのに、何故か全体で見るとアホがいる。まさか中身を取り替えるわけにもいかないし、意識を失わせるのもたぶん無理だから、諦めよう。

 私は服の方に目を向けた。男物の白いシャツ。薄汚れてるけど、実はシルクで、お城から掻っ払ってきた高級品だ。よく見ると、細かな刺繍が入ってる。体よりずっと大きなそのシャツをラルナはだぼっと着て、長い袖は肘の辺りで捲り上げて、裾はだらりと出している。しどけなく開いた胸元も相俟ってとにかくだらしない。余りに余ったシャツの裾にスカートは殆ど隠れて、茶色の生地がチラと見えるや、もう逞しい太腿だ。しなやかな脚の先には汚いブーツ。泥のこびり付いたその足先まで見つめて、私は溜息を吐いた。

 如何にもなゴロツキだ。だらしがなくって、しまりがなくって、なのに……酷く様になる。

「なに?」

 ニコッとラルナが笑う。ずるいよね、ほんと。私は乱れた毛先を引っ張って、胸元のボタンを留めてあげた。小さいくせに、やたら大きい。

「お願いだから、ちゃんとしててね?」

「分かってるって」

 分かってるよ。あなたは絶対分かってないって。

「どいて」

「あっ、ごめんなさい」

 どんっと私を押し退けて、男の子が酒場に入っていく。何の用だろう?

「けっ、昼間から良いご身分だな」

「飲みに来たわけないでしょ。どっかのバカじゃないんだし」

 まさかお酒なはずはない。だけど、ほんとに何の用事だろう? ラルナと二人見ていると、その子はまっすぐおばさんのいるカウンターに向かった。

「すんません。遅くなりました」

「ああ、良いんだよ。おーい、あんたら!」

 おばさんが手を上げて叫んだ。なんだろう? ラルナと顔を見合わせてると、おばさんが笑いながら言った。

「なに、すっとぼけた顔してんだい! 依頼人だよ! この子が!」

 依頼人? この子が?

 こっちを睨め上げる男の子を見つめて、私とラルナは、顔を見合わせた。


「さあ、見せてやりな。あんたの虎の子をさ」

 昼前の酒場には客は無い。大きなテーブルに4人。私とラルナ、おばさんと男の子。向かい合わせで座ると、おばさんが早速そう促した。男の子は隣のおばさんを胡乱げに見上げる。

「ハハハハ。大丈夫さ! こいつらは信用出来る! 保証するよ!」

 おばさんが膝を叩いて請け合えば、男の子はやっと私達を見た。粗末なシャツの胸元に手を入れると首に掛けた麻紐を手繰る。先には小さな袋が付けてあって、男の子は口に指に差し入れて僅かに開くと、じっと私達を見つめながら、慎重に中身を摘まみ出した。

「数日前に、こいつをとある場所で見つけた。その場所に隠されている物を手に入れたい。――それが俺の依頼だ」

 男の子が早口で、だけど落ち着いた声色で言った。

「……“コイン”だ」

 琥珀色の双眸を指の先に向けてラルナが小さく呟いた。そうだ。コインだ。だけど……ただのコインじゃない。小さくて汚れてるけど、これって……。

「おっと……?」

 ラルナが手を伸ばすと、男の子がさっと手を引いた。ラルナは大袈裟に上体を崩して、とぼけた顔をしてみせる。一方、男の子の顔は険しい。切れ長の瞳がじっとラルナを睨め上げている。

「見るだけだって。取りゃしないよ」

 にやにや、気色の悪い笑みでラルナが掌を出す。むしろ、眉間の皺は濃くなった。ラルナは顔をむっとさせて、唇を尖らす。

「なんだよ。ケチー」

「ケチじゃない。信用出来ない。持ち逃げされちゃ溜まんない」

「しないよ。そんなこと」

「いいや。するね」

「しないって」

「する」

「しないっつの! お前、わたしを誰だと思ってるのさ? こう見えても、わたしは最強のゆうっ……」

 おい、子供の言い合いで、何言い出してるんだよ! 慌ててラルナの口を塞いで、「あははは……」と愛想笑いを向けると、男の子は冷たい顔。静かに言った。

「まず。あんた、酒臭い。さっきまで飲んでたな。それも大量に。顔色から言って、寝起きだ。服の汚れ方からして外で寝てたんだろ。つまり、明け方まで大量に飲酒して、酔って外で寝てたんだ。次に。あんた、ジャランガをやるだろ? 硬い牌に指先で触れるから、あれをやる奴は指にタコができる。あんたも右手中指の先にタコがある。相当やってる、ギャンブル狂いだ。なのに、剣ダコはない。最後に。あんた達二人とも、汚れてるが、服自体は上等品だ。あんたのシャツもシルクだな。なのに、あんたら二人ともアクセサリー一つ身につけてない。よく見りゃ、そもそも武器さえ持ってない。つまり、あんたは。実力はあって稼ぎは良いがそれ以上に博打でスっちまうクズか。金持ちの実家から飛び出してきた放蕩娘かのどっちかだ。剣ダコが無いとこを見ると、後者かな。どっちにしても、あんたは信用出来ない。いかにもこいつを持ち逃げしそうな金にいい加減な人間だ」

 私達より二つか三つは幼そうな男の子が淡々と並べた言葉に私とラルナは顔を見合わせる。ラルナなんて、驚いて目をぱちくり瞬いている。

「ガハハハハ!!!」

 おばさんが豪快に笑った。

「どうだい? なかなか見所のあるガキだろう。つい一週間前にさ。いきなりさっきの“コイン”を持ってきてね。そいつをちらっと見せて、信頼出来る冒険者を紹介してくれってんだ。後はもう何を聞いても答えやしない。なだめても、すかしても、食いもんで釣ってももうダメだ。“コイン”だって見せちゃくれない。何もかも、冒険者を紹介してからだ。ってんだ。話になりゃしないが、あんな物を見せられちゃ突っぱねるのももったいない。だから、こうしてあんた達と引き合わせたわけだけど。……坊や、気に入らないかい?」

 幼い顔立ちに似合わない怜悧な瞳が、じっと私達を見つめた。まずラルナ。次に私。視線が真っ直ぐにぶつかり、やがて、険しい眉がほんの少しだけ和らいだ。

「……あんたは、正直な人だ。信頼出来そうだ」

 彼――男の子なんてもう呼べない――は私を見つめて小さく頷き、それからおばさんを見上げて言った。

「この人達にお願いしようと思います。ゾネッタさん。あなたのご紹介でもありますから」

「こいつぅ。如才ないねえ」

 おばさん――ゾネッタさんなんて名前で呼んだ事ないや――に頭を撫でられて憮然としてる所はどこにでもいそうな男の子だ。だけど、言葉遣いにしても、観察眼にしても、ただの男の子じゃない。うちのラルナなんかより、ずっと大人だし、ずっと賢いし、ずっとちゃんとしてる。間違っても、昼間から飲んだくれて、ギャンブルやって喧嘩したりしなさそうだ。「おいボウズ! なんだよその言い方! わたしは信頼出来ないけど、ユーリなら良いっての!? 見る目あるじゃねえかバカヤロー!」。なんか、よく分かんない絡み方してるし……。「ていうか、おばさん名前あったんだ?」。「あるに決まってんだろ! 生まれた時からおばさんだったわけじゃねえんだよ!」。ほんとラルナ酷いなっ!

 彼はおばさんと喧嘩してるラルナに侮蔑の視線を向けて、それから私に向き合うと居住まいを正した。

「エドと言います。よろしくお願いします」

「あ、ユリスティア……。じゃなくて、ユーリ! ユーリです! 冒険者ですっ!」

 あぶなっ! あんまりちゃんとしてるから、つい本名を言っちゃいそうになっちゃった。

「わたし、ラルナ! ラルナ・エスター……」

「ラルナ! 仲間のラルナ!」

 おいっ! 賞金首! ラルナは有り触れた名前だから大丈夫だけど、エスターシュミットまで言ったらまずいからっ!

 そんな私達の様子を見て、エドは冷めた目をしてる。いや、ほんとヤバいかも私達……。ちゃんとしよう。仕事だし、依頼人だし、冒険だし、ラルナこんなだし。私はすーっと深呼吸して、頭を切り替える。

「確認させて欲しい。あなたはその“コイン”をとある場所で見つけた。そこにはまだその“コイン”が他にも隠されている。だから、私達に一緒に探して欲しい」

「そうだ」

「つまり、報酬は見つけた“コイン”――“お宝”その物」

「そうだ。取り分はまず、ゾネッタさんに仲介料として一割。残りを、俺とあんた達で折半で考えてる」

 じっと、私は“コイン”とエドの目を見比べる。

 ――嘘だ。

 そんな気がした。エドの目には嘘の色が差している。根拠は無いけど、そんな感じがする。怪しい、危険かもしれない。だけど、やっぱり瞳は“コイン”に吸い寄せられる。

 いや、ダメだ。冷静になれ、そう言い聞かせながら、私は訊く。

「条件に不満はない。だから聞きたいな。……“お宝”の場所を知っているなら、自分で探せばいい。どうして私達に依頼を?」

「それは……」

 案の定、エドは視線を逸らした。迷うようにテーブルを伝った視線は、次の瞬間、再び真っ直ぐにこちらを見上げていた。

「……俺一人じゃ見つけられなかったからだ。だから、あんたらに手伝って欲しい。……冒険者なんだろ? 一応」

 ざわり、心が揺れるのを感じていた。冒険者。そうだ、そのはずだった。あなたに憧れて、あなたに連れられて、そして私はあの城を出た。あれから、どれだけ経った? だけど、夢見た冒険はまだやって来ない。何一つ、冒険者らしい事なんてしちゃいない。

 エドの目に今度は嘘の色は無い。だけど……。

「……請けてくれるなら、前金にこの“コイン”をやる。そんなら、もし“お宝”が見つからなくっても、あんたらに損はないはずだ」

 エドがさりげなく“コイン”を見せつけた。その輝きが私を迷わせる。エドの瞳、指先の“コイン”……。

 あっ、と異変に気付いた。ちょうど同じに、エドも異変に気付いて瞳を大きく見開いた。

 “コイン”が消えている。決して離そうとしなかったその“コイン”が彼の指先から忽然と消えている。慌てたエドに応えるように、キーンと高い音がした。

「いいじゃん。やろうよ。なんてったって“お宝”だ」

 ラルナが言った。ラルナは足を組んで上を向いて、薄笑いに“コイン”を弾いた。

「やりたいんでしょ?」

 にやり、ラルナが微笑み、弾かれた“コイン”が中空を舞う。

 どこか煤けた琥珀色の瞳に映る“コイン”は、鮮やかな黄金に輝いていた。

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