第13話

「善くんといとちゃんってまだ仲良しなんだね。もしかして今付き合ってるとか?」

「ううん、仲良しでも付き合ってもないよ」

「ほんと? そうなんだ。よかったあ。今日、いとちゃん、善くんと一緒に来たから、2人付き合い始めたのかと思った」



梨花ちゃんはほっと胸を撫で下ろし、遠くの席で男友達と笑って合っている善くんを見つめる。



「……善くん以上の人ってほんと全然いなくてさ、今でも忘れられないんだよね」



こんなにかわいい女の子の心を、別れて何年も経っているのに掴み続けているだなんて、いったい善くんは何者なのだろう。


恋愛に関連する能力のレベル上げをマックスまで終わらせてから生まれてきたんだろうか。



今は片思いの状態だとしても一度は善くんに選ばれた女の子を前にして、私の胸にあるのは分不相応な恋だと改めて自覚する。そうすると、さっきまでの、善くんと2人でいた時間までもが牙をむいて、私はひどく恥ずかしくなった。



追い打ちをかけるようだ。梨花ちゃんは切なそうに微笑しながら吐露する。



「善くんは、ほら、優しいでしょ? 落とそうと思ってる女の子だけじゃなくて、老若男女問わず、誰にでも親切にするっていうか……」

「うん、確かに。夏も私まで助けてもらったし」

「ね! それに当たり前にかっこいいし、あと、いろんなことがめちゃくちゃ上手でしょ? ……いや、いろんなことって言うとちょっとあれだけどさ。あは、ごめんごめん、いとちゃん、話しやすくて口滑っちゃった」



梨花ちゃんは「恥ずかしい」と顔を赤くする。


赤面しても可愛いどころか、赤面すれば可愛さが増すなんて、どれだけ容姿が整っているんだろう。



「変なこと言ってごめんね? 2人が付き合ってないならいいの」



梨花ちゃんは、熱の集まった顔に手で風を送りながら照れ笑いをして、席に戻っていった。


どうやらこっそり話を聞いていたらしい。そばにいたよっちゃんと花乃ちゃんが怪訝な顔をする。



「梨花って、善と付き合ってたの小5とかじゃなかった? 小学生で経験したんか? やばくね?」

「いや、中1の3学期くらいまでは付き合ってたらしいから、中学上がってからでしょ、さすがに」

「ああ、なるほどな。善って手早い印象しかないから、小5でやったのかと思った」

「さすがにないでしょ。さすがの善くんとはいえ」



私はというと、梨花ちゃんの照れた顔が可愛くて、全然意味のわからないダメージを受けていて、よっちゃんと花乃ちゃんの話が入ってきていなかった。



「(……梨花ちゃん、可愛かったな)」



可愛いの代名詞みたいな女の子を目の当たりにすると、善くんのくれた、あんなにもふわふわと柔らかかった「可愛い」が急に刺々し始める。その可愛い女の子が善くんの好きだった女の子なのだから、棘が倍になって襲いかかってくる。



梨花ちゃんは可愛いな。可愛くていいな。善くんもきっとたくさん可愛いって思ったんだろうな。たくさんときめいたんだろうな。いいな。いいな。


私だって可愛かったら、善くんに、好きって言いたかったな。



思考が思いもよらないところに落ち着いて、手から枝豆が滑り落ちた。



「(……え?)」



私はもしも可愛く生まれていたら、善くんに好きって言いたかったの? 彼氏が欲しいとか、デートをしたいとか、善くんに一度遊ばれてみたいとかじゃなくて? 好きってただ一言伝えたかったの?


下心を本人に見せてもいいっていう選択肢がほしかったの?



   

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