第12話

同窓会の会場に着くと既に割と人が集まっていて、善くんの車から変な女が降りてきたものだから、注目の集まり具合が尋常じゃなかった。


善くんの影に隠れようと努める。



「あ! いと!」



努力もむなしく、即座に見つかってしまった。へらへらとして善くんの後ろから出ていく。


友達のよっちゃんと花乃ちゃんが鬼の形相で駆け寄ってくるのが見えた。逃げる隙もなく、あっけなく捕まって、到着早々2人から説教を受ける運びとなった。



「なんで連絡先消したの? ふざけてるの?」

「大変申し訳ございませんでした!」

「なんかあったの?」

「ちょっと深い事情が……」

「いや、別に言い訳とかいいんだけど」

「申し訳ございませんでした」



私が花乃ちゃんに頬をつねって叱られている間、善くんはきらきらの笑顔で友達と話していた。善くんを囲んでいるうちの半分は女の子で、それはもうとんでもなく綺麗な女の子ばかりで、親しそうに善くんの腕に触れている子もいる。


その光景を見て、よっちゃんは苦笑する。



「相変わらず善くんすごいな。私、善くんよりモテてる人見たことないもんね」



花乃ちゃんは善くんに視線を移し、私の頬から手を離した。



「今彼女いないって言ってたから、それで群がってるんでしょ」



私は、さっきまで2人だったのにな、と子供みたいなことを思った。



同窓会は居酒屋で行われた。小中高の選りすぐりとは本当に選りすぐりらしく、全部で40人くらいしかいなかった。座敷に上がり乾杯が済むと、大部屋の隅で花乃ちゃんは顔を寄せた。



「てかさ、なんでいと、善の車で来たの?」

「……なんか、あの、奇跡が起こって」

「どんな奇跡だよ」



呆れる花乃ちゃんの隣からよっちゃんが口を挟む。



「いとって昔から善くんと仲良かったよね」

「まあ、善、いとのこと女友達って公言してるしね」



よっちゃんと花乃ちゃんは納得したように頷き合う。



「善くんの車から降りて来た女がいとだってわかって、ほんとびっくりしたって。今度の善くんの彼女がいとなのかと思った」



よっちゃんの思いも寄らぬ発言に、「それだけはあり得ないよ」と私は笑うしかない。すると、2人は怒ったように眉を寄せた。



「あり得ないとは言ってないでしょうが。びっくりするって話だって」

「そうそう。正直、善っていとのことめちゃくちゃ気に入ってんなあって感じだから、付き合ったら付き合ったで、まあ納得するよ、普通に」

「やっぱお気に入りだよね? 善くんっていとのこと気に入ってるよね?」

「いとと連絡つかなくなってまじで怒ってたしね」

「そうそう! いと、知らないでしょ? あの善くんが怒ったんだよ。あの温厚で不機嫌にすらならない善くんが」



気に入られていると思ったことのない私は、よっちゃんと花乃ちゃんの話を、2人はもう酔ったんだな、と思いながら聞き流していた。



善くんが気に入るのは可愛い女の子だ。


女の子! という感じの、いい匂いがしそうな、にこっと微笑まれるだけで貢いでしまいそうになる、スタイルがよくて、色が白くて、わがままをいくらでも聞きたくなる、そんな女の子だ。



善くんは気に入った女の子は決まって彼女にしてきたじゃないか。そうでなくても手は出してきた。善くんに気に入られるということは、善くんにとっての「女の子」になることだ。


圏内に入ったことすらない女友達枠の私は違う。



そんなことを考えていたから呼び寄せたのかと思った。思考の隅に「いとちゃん」と私の名前を呼ぶ可愛い声が割って入る。目を向ければ、善くんの最初の彼女の梨花ちゃんがいた。


子どものころから今なお変わらず可愛い梨花ちゃんは、くりくりの目を細めて私を見つめた。



「いとちゃん久しぶり。この前さ、大変そうだったね。ほんとお疲れさま」

「この前?」

「夏かな? 駅前の居酒屋さんに来てたでしょ? ほら、善くんが助けに行ったやつ」

「ああ! そう、大変だったんだよー。お姉ちゃんが酔っちゃって」

「あのとき、善くんと一緒にいたから私もあのお店にいたの。見てたよー。善くんって優しいよね。惚れ直しちゃった」



梨花ちゃんは、ふふ、と恥ずかしそうに笑った。


私は、可愛いってこういうことだよ、と思う。



   

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