第73話

いとちゃんと再会したあの夏から半年後。地元の友達と集団で遊んだ冬の日に、善くんの腕に抱きついて自撮りすれば、善くんは呆れた顔で笑った。



「なんでそういう写真撮りたがんの?」

「えー、記念? 嬉しいじゃん」

「わかんね」



基本的にべたべたさせてくれる善くんだったが、この日は私の腕から自分の腕を引き抜いた。


行為の誘いを断られることはあっても、それ以外の拒絶は滅多になかったから、困惑していれば、善くんは冷たい目をして笑った。



「何回言ったら通じんの? お前はねえよって」

「ぜんく、」

「梨花だけじゃねえんだよな。最近、やたら写真撮んの。全部載せてんだろ? なんか競ってんの?」



善くん知ってたんだ、ということに驚いてしまって、否定を忘れた。



確かに、事実として匂わせ合戦というか、インスタに2人きりの写真や眠っている善くんの写真を載せたりするマウントの取り合いが横行していた。


善くんが3人目の彼女と別れてから一向に彼女を作る気配がないので、セフレたちが「他のセフレより私の方が彼女に近い存在ですよ」という不毛な戦いを始めてしまったのだ。



善くんは心底面倒臭そうにため息を吐く。



「特定のやつもいねえし放置してたけど、怠いわ。彼女ヅラしてくるやつ全員、怠い」

「待っ、」

「もうねえよ、お前とは」



ほら、いとちゃんと再会したから、善くんが遠ざかっていく。


善くんはそれ以来、連絡を返してくれなくなった。インスタのストーリーを深読みすれば、多くの女の子が似たような状態に陥っているみたいだった。



「……いとちゃん、嫌いだな」



脳裏にいとちゃんを思い浮かべながら、インスタで抜け駆けしている女の子はいないか探っていれば、自分が良香よしかという名前の女の子と繋がっていることに気付く。


良香って確か、いとちゃんの友達だ。


良香ちゃんのインスタの投稿を見てみると、いとちゃんが写っている写真が載っている投稿を見つけた。背景から、同窓会のときのものだと察する。



同窓会の写真を見れば、反射的に、あの日のことを思い出してしまう。


大きな眼鏡をかけた、化粧気のない、特別可愛いこともないいとちゃんが、善くんの車から降りてきた。同窓会の間も、善くんの意識の半分を奪っていて、そんなことすら知らずに、いとちゃんは友達とへらへらと笑っていて、最終的に、善くんと途中で抜けた。



ねえ、なんでいとちゃんは、特別なんだろう。


また善くんを独り占めするつもりなの? また善くんに大切にされるつもりなの? なんで? なんで何ももっていないいとちゃんが、善くんを奪うの?



「いとちゃんには他の男の子が似合うよ」



善くんの隣は似合わなかった。


梶の彼女だったころのいとちゃんが、1番、らしかったよ。



   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る