第47話


「可愛かったのって彼女?」

「友達」

「セフレ?」

「友達」

「セフレ?」

「友達」

「セフレ?」

「しつけえ」



善くんは面倒臭そうにして、俺の足を蹴った。



それにしても、善くんが「可愛い」と言うなんて珍しいこともあるもんだ。本人を前にしては結構言うけど、本人不在の場で言ってるのなんて未だかつて見たことがない。


一体誰だ? くっそ可愛かった女って。



「つか、洸、お前彼女いたの? あんなに彼女にするメリットがどうとか言ってたのに」

「俺も落ち着いたんだよ」

「この辺の子?」

「うん、1人は」

「何人かいんの?」

「今は3人。高校の後輩と大学の同期とサークルのマネ。みんな納得してるし、喧嘩しねえし、いい子ばっかだよ」

「あー、そ。お前すげえね」



善くんは俺の恋愛模様に興味などないと隠しもしない返事をし、何本目かの煙草に火をつけた。


そのとき善くんのスマホが鳴る。善くんはスマホを見て「まじか」と呟くと、煙草を揉み消し立ち上がった。



「なに、善くんどっか行くの?」

「彼女がこっちの方来てるから会いたいって」

「えー何だそれ。善くんが付き合うのってそういう勝手な女ばっかじゃね? 面倒じゃねえの? 言うこと聞くより聞かせる方が絶対楽じゃんか」

「いや、聞く方が楽だろ。はいはいっつってればそれで機嫌いいんだから」



善くんは、結構なクズ発言をしながら家の中に戻っていく。


その背中に言ってみる。



「そういや今日、大我くん、いとと会うらしいよ」



善くんはぴたっと立ち止まって、存分に驚いたと語る無防備な顔をして俺を見下ろした。珍しい。



「……は? いと?」

「そう。コンビニ行ったら大我くんに会ってさ、今日、いとと大我くんで一緒に海行って花火すんだって。楽しそうっつったら俺も来ていいよって誘ってくれた」

「……あー、なんか朝LINE来てたな。いととってのは聞いてねえけど」

「善くんに断ったんでしょ? 善くんにももう一回声かけといて、って言われたけど、彼女と会うなら無理だよな。まあ、しょうがねえわ。善くんは無理だったっつっとく」



完全に面白がりながら「残念だなあ」と俺も立ち上がり、善くんを追い越して中に入ろうとすれば、善くんは「おい」と低い声で俺を呼び止めた。



「何時だよ」

「え、善くん行けねえでしょ? 彼女と会うのに」

「何時?」

「さあ。もう海にいるんじゃね?」



善くんはため息をつくと、スマホを触りながら家の中に入っていく。俺はサンダルを脱ぎ捨て善くんの後を追った。



「彼女は? 彼女どうすんの?」

「弟と北海道に旅行中で不在ってのどう?」

「善くん、彼女の申し出断れるの???」

「断れるわ」



善くんは笑いながら、リビングのテーブルに煙草を置いて、それから、そうするのが当たり前みたいにペアリングを外した。



   


[頼りない拘束]



    

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