第31話


「いと、なんか着るもん貸して」



下着をつけただけの善くんを認識できないほど勢いよく駆け寄って、善くんの腰にしがみつき、善くんを見上げた。



「善くん、好きなの??」

「は?」

「さっき俺もって。善くん、私のこと好きなの?」

「あー、いとのこと? 好きだよ」



善くんは簡単そうに言いながら私を抱きしめ返すと、「それより服」とリビングに戻っていく。



ようやくそこで察した。


ああ、なるほど。この「好き」は、友達として、とか、幼馴染として、とか、一平民として、とか、なんかそういう幅の広い方の「好き」だ。



「(まあ、そうだよね)」



なんで誤解したんだろう。恋愛としての「好き」だって、今までならきっと間違えなかったのに。


思い上がってはしゃいだ自分が恥ずかしく、恥ずかしさをごまかすために息を吐いてから、善くんの後を追った。



「スウェットがあるよ。花乃ちゃんが善くんにって買ってくれた」

「なんて?」

「善くんが泊まりに来るって言ったら、じゃあスウェット買ってあげるって」

「どういう?」

「でも善くんが着る服うちになかったし、私も気がまわらなかったから、よかった」



花乃ちゃんが買ってくれたスウェットを引っ張り出して渡して、初めて善くんがほぼ裸だと気付く。


年甲斐もなく動じそうになって、それがまた恥ずかしくて、体を見ないようにしていると気付かれないようにしながら、善くんにスウェットを押し付けた。



「せ、洗濯はしたから、これ、着てて。私もお風呂行ってくる」



自分の着替えなんかなんでもいい。テキトーにかき集めて、逃げるようにバスルームへ向かう。



扉を閉めると1人になって、ほっとする。扉に背をつけてしゃがみ込み、はあ、と息を吐いた。



善くんといると、心が忙しなく動くからつらい。きっと頑張らない方が苦しくなかった。あきらめようと善くん断ちをしているときの方が、苦しくなかった。



キスしたり抱きしめられたりしている時点で、運は私に味方してくれているし、望んでもいなかったことのはずなのに、欲張りになった。


いつからか、善くんに好かれることを期待して欲しがってしまっている。



気持ちの釣り合いがとれることを望むなんて、こんなにもバカでかい感情を持っている人間のすることではないというのに。



「…頑張ろ、」



これは報われるための努力ではない。


下心を消すために不可欠な回り道。



頑張ろう。頑張ってみようと決めたから。


善くんに好かれる方法はわからないけど、善くんを好きだという気持ちを蔑ろにしないように、いつか、後悔しないように。



いつか、私の中の下心が、綺麗さっぱりいなくなるように。



   

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