第28話


花乃ちゃんが尋ねる。



「告った日以降は、善から連絡ないの?」

「あるよ。電話かけてきてくれたり、なんかよくわからない確認の連絡くれたり」

「よくわからない確認? 何の確認?」

「飲み行っていいか? みたいなの。女の子いるけど、って」



善くんは不思議な連絡をくれる。


今日飲み会あるんだけど行ってもいい? 女の同僚も来るんだけど。



よっちゃんと花乃ちゃんは顔を見合わせた。2人の困惑が手に取るようにわかって「よくわからないよね」と笑えば、花乃ちゃんは頭を抱え、よっちゃんは私の両肩を掴んだ。



「ね、ねえ、いと、あんたもしかして、善くんと付き合ってるんじゃない?」

「え?」

「もしかして、善くん、いとの告白に、いいよって言ったんじゃない? ねえ、そうだよ、絶対そうだよ」

「いやあ、でも……」

「そうじゃないと、女の子がいる飲み会に行く許可なんかいちいち取らないでしょ」

「そ、そうなんだ…」



でも、善くんにいいよって言われたっけ?


……いや、言われた。「ください」って言ったら、「いいよ」って言った。いや、でも、それが、付き合ってあげる、という意味かは不確かだ。


そもそも善くんは好きな人としか付き合わないし、善くんは私のこと好きそうじゃないから、多分付き合ってないと思うんだけど。



頭を捻って考えても答えが出ない。



夜も更け、お酒が入ってみんなふわふわとし始めたころ、善くんから電話がかかってきた。


「善くんから電話だから出る」と宣言しながら慌てて立ち上がり、ベランダに出れば、恐ろしいほど寒くて体を抱いた。



電話を取ると、耳元で善くんが「いと」と言った。善くんの家で抱きしめられたことを思い出して、いつもいつも、幸せになる。



『今大丈夫?』

「大丈夫。善くんは外?」

『うん。二次会終わって、今家帰ってるとこ』

「そうなんだ。お疲れさま」

『おー。今度飲み行こ。司の店、夜もやってる』

「あ、司さん。行きたいな」



脳裏に、善くんと梨花ちゃんの写真が思い浮かび、考える。私も善くんの腕に抱き付いてみたいな。



『いとは家? 今何してんの?』

「今日ね、よっちゃんと花乃ちゃんと泊まりでクリスマス会してるんだ。今はドラマ見てた。よっちゃんの好きな俳優さんが出てるやつ」

『クリスマスは早くね?』

「前夜祭的なあれだよ。本番は23日の夜する」

『んだよ、前夜祭的なあれって』



電話越しに善くんの笑い声が聞こえ、くすぐったくて、嬉しくて、私もつられて笑ってしまう。


善くんは「でもいいな」と呟いて、少し甘い声で「俺も泊めて」と言った。



「もちろんだよ。これから来る?」

『行きません』 

「23日は? 用事ある?」

『23も行かねえよ。花乃とかいんだろ』

「花乃ちゃんいるよ。電話代わろうか」

『花乃の声聞いてもしょうがねえんだわ』



善くんは呆れたように笑う。


耳元で響くその声は、簡単に私を幸せにする。



「私、善くんと電話するの好きだな」

『うん、伝わってくる』

「そっか」



1人でいると善くんの声が聞きたくなって、善くんが電話をくれると、善くんに会いたくなる。


こんな気持ちを、善くんもきっと誰かに抱いたことがあるんだろうな。



『いと、金曜の夜飲み行く?』

「い、行く!」

『その後いとの家泊まっていい?』

「うん、どうぞ」

『俺は土曜1日何もねえし、行きたいところあるか考えといて』

「わかった」



電話が切れて、ベランダに1人になって、どうしようもない静けさに寂しさを覚える。



善くんに会いたい。善くんの顔が見たい。善くんが好きだ。善くんの彼女になりたい。


無限に湧く欲望の最後だけでも、消えてくれたらいいのにな。



    

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