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第27話
善くんさえよければ、私は善くんにたくさん女の子扱いされたい。でも、善くんにブスだと思われたり不愉快な思いをさせたりするのが怖い。
だから、いろいろと勉強しようと思って、生まれて初めてアダルトビデオなるものを購入した。何を隠そう、私は最後までしたことがないので、少女漫画や保健体育で省かれる過程を知らないのだ。
恐る恐る見始めて、笑ってしまった。
女優さんがすごく、綺麗だったから。
梶くんの「顔とか見たらアウトだった」という言葉とか、私では反応しない、と言った梶くんの友達の言葉を、本当の意味で初めて理解する。
そりゃあそうだ、と思う。
私も私を抱こうとは思えないもの。
善くんにはそう思われたくない。それは、果てしなく無謀な願望であり、悪あがきでしかない。
「……善くんも、きっと思うよ」
善くんは優しいから、はっきりとは言わないかもしれない。
もしかしたら、最中に私の顔を見ないようにしたり、アダルトビデオの女優さんとか過去の可愛い女性たちを思い出して凌いだりして、ごまかしてくれるかもしれない。
でも、きっと思うんだろうな。
12月の頭にクリスマス会と称した飲み会をする運びとなり、仕事終わりに花乃ちゃんとよっちゃんと私の家に集った。
ひとまず善くんに告白をしたことを報告すると、よっちゃんは卒倒しそうなほど驚いて、花乃ちゃんは真剣な顔で私を見つめた。
「善はなんて?」
「か、可愛いって」
「「は?」」
「いや、あの、もちろん嘘だと思うよ?嘘だと思うんだけどね、でも、可愛いって言ってくれて……」
2人は何も言わない。私小さくなって言い訳する。
「いや、本当にちゃんと嘘だと思ってるよ。わかってるよ。わかってるから何も言わないで……」
それでも何も返事がないので、ちらっと窺えば、よっちゃんは眉を寄せ、花乃ちゃんは般若みたいな顔をしていた。
「あのクズ野郎、返事もろくにできないの?」
「い、いやいや、違うって。多分、返事は保留なんだよ」
「それがクズなんだよ? わかる?」
「いや、でも、うーん、じゃあ遠回しに断られたのかもしれない。あれから1ヶ月ほど会ってないし、私が気付かなかっただけで、きっとそうだよ」
「遠回しに断ってたとして、クズだよ」
何を言おうと善くんクズ説は覆らなかった。
花乃ちゃんは勢いよくビールを流し込む。よっちゃんは、労うように花乃ちゃんの肩を叩いて「頑張ったね」と私を抱きしめてくれた。
「てか、いと、善くんのこと好きだったんだ」
「実はそうなんだ。やっぱりあきらめられないから、頑張ってみようと思って」
「いいじゃん、いいじゃん。恋なんて頑張ってなんぼだよー」
むふふと笑ったよっちゃんは、何かを思い出したようにスマホを取り出した。
「善くんといえば、昨日インスタ上がってたよ」
「え? 善くん、インスタしてるの?」
「善くんはしてないんだけど、善くんのお友達が結構してて、たまに善くんも載るの。ほら」
よっちゃんは誰かのインスタを開いて見せてくれた。そこには友達と無邪気に笑う善くんがいて、コメント欄が、善くんへの賛辞で溢れかえっていた。
私の好きになったのはとんでもない人らしい。改めて思い知る。
それを一緒に見ていた花乃ちゃんは「芸能人かよ」と嘲るように笑った。
「あれは? 梨花はインスタしてないの?」
「してるよ」
「梨花とか善周りの女は調査した方がいいよ。あっち側がどう動いてるかはこっちも把握しといた方がいい」
「何の指揮官なの? あなた」
よっちゃんは苦笑しながらアプリを操作していたが、不意に「あ」と呟いた。花乃ちゃんが「何?」とよっちゃんの腕を引っ張り、そのおかげで私にもスマホの画面が見えた。
それは梨花ちゃんの投稿の1つだった。梨花ちゃんと一緒に善くんが映っていた。カフェに2人でいるのだろう。善くんは頬杖をついて外を見ている。
花乃ちゃんがスワイプすると、2枚目は外で自撮りをしたものだった。梨花ちゃんは善くんの腕に抱きついていて、可愛いワンピースを着ていて、華奢で、女の子らしくて……。
──あと、いろんなことがめちゃくちゃ上手でしょ? ……いや、いろんなことって言うとちょっとあれだけどさ。
梨花ちゃんの同窓会での発言が、今さら突き刺さる。
「いと」
よっちゃんに肩を揺らされ、我に返る。
笑みを作ろうとしたがうまくいかず、あきらめて、私は再び梨花ちゃんと善くんの写真に視線を落とした。
「……梨花ちゃんとより戻したりしたら、善くん、教えてくれるかな」
「浮気はするタイプじゃないから、言うだろうよ」
「そうだよね。じゃあ、やっぱり、彼女できたって聞くまでは頑張ろう」
へらへらと笑えば、よっちゃんは歯痒そうにインスタを閉じてスマホをソファに放り投げた。
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