第24話
善くんは私が好きになった人。あきらめようと思っても、また好きになってしまった人。
引く手数多だし、可愛い女の子をたくさんはべらせているし、街を歩けば人の目を奪うし、元カノも可愛い子揃いだし、手は早いし、経験値は高いし。
だから、私はふられるに決まっているんだけど。
私は私のために頑張ると決めたから。
後半、味を感じる余裕がなかったが、なんとかオムライスを食べ終え、お冷やを飲み、それから、善くんをまっすぐに見つめた。
嘘。目は泳ぐし、手は震えるし、泣きたくなるけど、でも、頑張って善くんの目を見ようとした。
「あの、善くん、聞いてほしいことがあります」
「なに?」
「下心、のこと、なんだけど、」
唇が震えて、焦る。
ちゃんと順序立てて話そうと思っていたのに、このままでは泣いて話せなくなりそうだと思ったら、結論が勝手に出て行った。
「善くんが好きです」
言えた。
もしも可愛かったら、善くんに言いたかったこと。
「善くんが、好きで……その、今、彼女がいらっしゃらないと聞いて、彼女ができるまでに、一度、言いたくて……その、好きなのは、ずっとで……だから、あきらめるために、昔、連絡先を変えて……」
こんな告白じゃ、善くんを困らせてしまう。
黙ればその瞬間に断られるのではないかと怯えて、必死に言葉を紡ぐ。
「もちろん、あの、キ…、あ、前回の、あの行動を受けて勘違いして言った、とかではなくて、だから、その、同窓会の帰りにあった出来事も、もう忘れたし、今後も忘れたままだし、今後、積極的に何かしらを行うつもりもないので、そこは、その、信じてほしくて、」
告白というよりは言い訳めいたことを続けていれば、こういう場に常人より慣れているであろう善くんは、至極簡単そうに言った。
「付き合う?」
時間というのは、こうも容易く止まっていいのか。
付き合う、の意味がわからず、この流れで言われる意図がわからず、私は呆然と善くんを見つめる。
「……つき、あわない、です」
「付き合わねえの? じゃあ何を求めてんの?」
「求める…?」
私が善くんに求めていること?
「……私は、ただ、好きって言いたかっただけで」
「言うだけで満足すんの?」
「……できれば、また会いたいです」
「会うだけでいいの?」
善くんは笑う。
「いとが欲しがんねえと何もやれねえわ」
笑い方一つで胸がぎゅっと締まって、ああ、私はこんなにも善くんが好きなんだな、と思い知る。
「……何をくれるの?」
「俺」
「…、」
「いらねえの?」
善くんは、私にこんなこと思わないでしょう? 好きも可愛いも愛しいも、思わないでしょう?
でも、私は何を隠そう単純だから、想定していた、ふられて終わるという結末と比べれば数億倍も嬉しい答えだと、喜ばずにはいられない。
「ください」と言えば、善くんは「いいよ」と言った。
「ごめん」や「応えられない」や「気持ち悪い」などの言葉が返ってこなかったという事実だけに安堵して、私は身勝手に生き延びたと思った。
善くんは、突然意味不明な告白をされておきながら驚くこともなく、平然と善くん節を披露する。
「じゃあうち行くか」
手が早いという噂はおそらく、真実だ。
「ぜ、善くんの家は行かない」
「じゃあいとの家?」
「いや、あの、そうじゃなくて、善くんと個室はだめだと思うんだ。だから解散で……」
「解散はねえわ。とりあえずうち行こ。手出すなっつうなら出さねえから」
「あ、ほんと?」
すると善くんは、これでもかと言うほど間をあけて「うん」と頷いた。
そういう行為自体は願ってもいないことだが、行為に及んだときに善くんが嫌な顔をする未来しか描けない私は、行為をする日が来るのならできるだけ先延ばしにしたいという思惑があった。
だから、手を出さないと言われて安堵した。
「よかった。じゃあ善くんの家お邪魔しようかな」
「手出すってどっから?」
「どこから? ……手を繋ぐとか?」
善くんは黙った。
私のレベルの低さに言葉も出ないのかもしれない。
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