第17話

何年か前にそんな出来事があったので、同窓会で梶くんに会って動揺してしまったが、全ては過去の話だ。



お店に戻ると、よっちゃんに「何だったの?」と聞かれたので「世間話」と笑う。よっちゃんたちはごまかされてくれた。


善くんは梨花ちゃんと楽しそうに笑っていた。美男美女の2人はパズルのピースみたいにぴたりとはまるから、やっぱりお似合いだな、と目を逸らした。



それからは何事もなく、いろんな人と思い出話に花を咲かせていた。懐かしい顔ぶれが、同窓会にあまり参加したことない私には新鮮で、楽しかった。


何人かに「善くんと付き合ってるのかと思った」と言われた。はっきりと否定しながら、一緒に車で来るなんて考え足らずだったな、と反省した。これからは、善くんのお言葉に甘える前に、少し視野を広くして人目を意識した方がいい。



まあ、そんなこんなで同窓会は無事に終わるかと思われた。



「いと、」



油断していたら、善くんが隣に座った。


運悪くよっちゃんはお手洗いに行っていて、花乃ちゃんは外で電話をしていて、近くには他に誰もいない。賑やかな集団の中で二人きりという環境と、腕が触れ合う距離に緊張して、私は少し体を引く。



「なに? どうしたの?」

「もしかして梶に会った?」

「え、な、なんで?」

「……まじで会った?」



善くんが眉を寄せる。


善くんは大人になった今も、梶君の名前を聞くと、ひどく怒った当時と似た顔をする。



「煙草吸う勢が梶見たっつうから、まさかと思ったけど、まじか。ほんとごめん」

「なんで善くんが謝るの?」

「俺が梶来ねえから来いっつった」

「別に騙されたとか思ってないよ」

「いや、ごめん」

「なんで?」



意味がわからずへらへらと笑えば、善くんは私の顔を覗き込んだ。



「もう帰るか?」

「え、いや、全然! 全然大丈夫! ほんとにお構いなく」

「帰ろっか」

「いや……」

「俺もう同窓会どころじゃねえんだけど」



まっすぐに射抜くみたいに私を見つめるから、心臓が止まった。



「……ほんと、おかまい、なく」

「うんって言って」

「え?」

「一緒に帰ろっか、いと」



善くんは私を見つめて、軽々と心臓を止めて、でも喧しいのも心臓だから、どうしてだろうって思うばかり。喧しいのは心臓じゃなくて下心の方だと気付かない。


小さく頷けば、善くんは私の肩に手を置いた。



「外で待ってて」



先に1人で外に出る。


善くんの車の横で待とうとしたが、喫煙所の方から笑い声が聞こえてきて、そこに梶くんがいるかもわからないのに、身動きが取れなくなった。出入り口のそばにたたずみ、善くんを待つ。



本当に送ってもらっていいのか。また誤解されるんじゃないか。善くんに同窓会を抜けさせていいのか。私、そんなにひどい顔をしていたんだろうか。


ぐるぐると考えて、ごめんなさい、と思う。



善くんがみんなに何と言ったのかはわからないが、引き止められたりと大変だったのだろう。店の外に出てきたときには、善くんは少し疲れていた。



「悪い、待たせた」

「いや、お構いなく。こちらこそごめんね」

「なんで? 帰りてえの俺だよ?」



嘘だ。善くんは友達が好きだから、もっと友達と話したかったはずだ。でも、嘘をついてくれている。ほらね、やっぱり善くんは優しい。老若男女問わず、私にまで。



    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る