第2話


腕を辿って、驚いた。



「愛ちゃん帰るって。自分でも立とうとして」

「えー? ふふふ、なにー?」

「なにー? じゃねえよ。ふにゃふにゃじゃん」



私よりずっと高い位置に、名だたる俳優と並んでも遜色のない綺麗な顔があって、彼は細身なのに姉を軽々と立ち上がらせてしまった。



「誰、あのかっこいい人! 愛の彼氏??」

「えー、やば。めちゃくちゃイケメンじゃない?」



姉の元クラスメートがアイドルを見つけたような反応をするのも頷ける。



「(善くんだ…)」



私自身も呆然と彼を見上げたまま動くことができない。


すると、アイドルの目が私に向いた。



「車で来てんの?」

「あ、は、はい」

「どれ? 愛ちゃん突っ込むから教えて」

「あ、はい、すみ、すみません……」



私が前に立って歩き出す。善くんは姉を引きずるようにして後ろをついてきた。



「えー、ねえ善? ふふ、善でしょー」

「そうそう」

「久しぶりだねえ。善もお店にいたの? あ、いとちゃんと一緒にいたのか」

「いや、俺は別の友達と飲んでた。いとは知らね。普通に愛ちゃん迎えきただけじゃねえの?」

「そっかあ。善はかっこいいねえ」

「脈絡ねえよなあ」



善くんは仕方がなさそうに目を細める。



こんな綺麗な人とも緊張せずに話すことができるなんて、もしかして、私の姉ってとんでもない人なんじゃないか? 私だったら触れられた時点で我に返って酔いが醒めそうだし、こんなふうに全体重を預けるなんてできないだろう。


身に降りかかることはないであろうことを考える。



「すみません、この車です」



車のロックを解除し助手席の扉を開くと、マスクの下で笑顔を貼り付けたまま待機する。善くんはちらっともこっちを見ることなく助手席に姉を押し込んだ。



「善、ばいばーい」

「はいはい。ばいばい」



機嫌のよさそうな姉に雑に手を振り、善くんは居酒屋に戻って行く。


かと思われたが、予想に反して善くんは助手席のドアを掴んで私を見下ろした。




「なあ、なんで敬語?」

「……反射で」

「反射? 意味わかんねーこと言うね」



善くんは短く笑った。



「全然変わんねえな。すぐわかったわ」

「そう……ですか? 変わらないですかね。妹の贔屓目はあるとしても、一層綺麗になったと思いますけど」

「いとのことな」

「あ、わた、、私は成長してないです。すみません」

「いと、連絡先変えたの?」

「かわってます」

「は、」



まあ、いいけど。


善くんは本当にどうでもよさそうに言うと、店に戻っていった。



    

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