第75話
「あ、私、三上えりか。律の元カノ。高校のときの話だけどね。諒ちゃん、律とはいつ出会ったの?」
「大学で……」
「大学? じゃあ、私と別れたあとかー。あ、じゃあ、高校のときの律見たくない? 私まだ写真持ってるよ、一緒に撮ったやつだけど」
三上さんは笑いながらスマホを取り出す。
私はほとんど反射で答えていた。
「いや、いい、です。結構です」
見たいわけがなかった。
見たくない、前の彼女と笑っている茅野なんて。
三上さんはそんな態度が気に入らなかったらしい。
「……つまんな」
低い声で呟いた。
「てか律、趣味変わったね。諒ちゃん見てると思うわ。ちゅーの仕方とかも変わってんのかな」
「…、ど、ですかね」
「ねえ、律さ、すぐくっついて来ない? 教室とか廊下とか、みんなで遊んでるときもずっと、律の膝の間が私の定位置だったんだけどさ、あれ、ちょっと困るよねー。あ、もう今はそんなことしない?」
三上さんは首を傾げる。
私はその答えがわからず、ただ曖昧に笑った。その反応に苛立ったように、三上さんは眉を寄せる。
綺麗で、堂々と、はっきりしている三上さん。
私とは正反対だ。
三上さんは、いろんなことを話した。
初めは茅野に興味がなかったこと。最初に惚れたのは茅野の方で、三上さんはそのアピールに負けて付き合うようになったこと。交際期間、茅野がわかりやすく特別扱いをしていたこと。初めてのデート。初めてのキス。初めての……。
「私がふったんだけど、律はそのときはまだ、私のことが好きだったみたい」
三上さんから聞く彼氏の茅野と、大学生のときのいろんな女性をはべらせていた茅野の間に大きな隔たりを感じる。三上さんに、──大好きな人にふられて、自暴自棄になって遊び始めたのだろうか。
語られない部分にまで、妄想が及ぶ。
「てか、諒ちゃんを選んだってことは、今も引きずってんのかもね。だってそうじゃない? 私と諒ちゃん、全然似てるとこないじゃん。これ、意識してないと無理でしょ」
私は茅野の声を求めた。記憶の中で「諒ちゃん」と呼ぶ声を反芻した。
「私」を見つめる茅野を思い出したかった。
「私ね、高校の途中で転校して、大学卒業してからはずっと海外にいたんだけど、最近日本に帰ってきたんだ」
三上さんの声音が変わる。
真剣に、まるで訴えるように語る三上さんは、さっきまでとは打って変わって、儚い少女のような印象を抱かせた。
「それで最近、律との間に誤解があったことがわかって、そしたら律にすごく会いたくなって、今日は律のお兄ちゃんに家を聞いて、会いに来たの」
三上さんは茅野のお兄さんと知り合いらしい。
無意味に引っかかる、バカな女だ。
「だから、待ち合わせってのは嘘だよ。ごめんね。でも、そうでも言わなきゃあげてくれなかったでしょ?」
悪戯を謝るみたいな気軽さでくすっと笑う、三上さんは魅力的だ。
「律、いい男になったって噂だけど、本当? ほしくなっちゃったらごめんね」
私が勝てそうな確率を考えた。
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