白い夢〈諒side〉

第73話

茅野はよくニュースを見る。会社から帰ってきたあとは特に、報道番組が終われば、私の肩にもたれかかって眠ってしまうことが多い。


今日もとんっと肩に重みを感じて、私はその方向に視線を向けた。目を閉じたまま私の肩に頭を預ける茅野は「眠い」と苦笑する。



「寝る?」

「寝る」

「ベッド行こうか」

「行く」



相当眠いようで、「行く」と言いつつ動かない。


疲れたように瞼を下ろす彼をどうにかするのはためらわれ、私はいつも茅野が動き出すまでじっとしていることばかりを選んでしまう。



消すことも忘れられたテレビから映像が流れる。私は見るともなくそれを見ていた。画面は忙しなく移り変わっていく。


そんなものよりも隣の茅野に意識のほとんどを注ぎ込んでいた私は、しばらくして、ふいにテレビに意識をひったくられた。



番組と番組の間。テレビはCMを映し出す。


何度も見かけたことのある宣伝だ。



「(……綺麗)」



綺麗な、真っ白なドレスと教会。


結婚式場の広告。



どんなリアルを知ったあとでさえも、結婚というものが輝いて見えるのは私だけだろうか。



永遠などなく、綺麗事では続かず、失敗の火種はいくつも転がっていて、想いは形や嵩を変えて行く。それなのにどうして、夢見てしまうのだろう。


結婚とは、現実を生きることだというのに。



私は、できるだけ興味のないふりをしてCMを眺める。奥底に抱いた願望を茅野に悟られないために。



「結婚したい」なんて、こんなもの、困らせるだけで、茅野にとったらプレッシャーでしかないのだろう。終わりを早めるだけのものなら、隠し通した方が賢い。



私はただ、見るともなく白いドレスを見ていた。そして、別のCMに移り変わったとき。



「──絶対、」



茅野は言った。



「絶対諒ちゃん、似合うよなあ。楽しみ」



思わず視線を向ければ、彼は目を閉じていた。


眠気に朦朧とした意識が放った冗談だと察しながら、そうでなければいいのにと、私はまた夢見てしまう。



    

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