わずかな露呈

諒side

第71話

平日のある日。喫煙室のそばを通ったとき、私は声を拾ってしまった。



「──やっぱ物足りない、というか…」

「うちの彼女、Eあるよ」

「E? まじすか、それ最高っすね」

「最高。やっぱでかいに限るよな」



ぴたっと止まってしまった足を見下ろし。



「(……Eとか何?)」



手も届かないサイズに、ため息を殺した。


大きい方がいいことは知っている。そんなの、男性側よりこっちの方が切実にそれを求めている。



「彼女は好きなんすけど、満足とは関係なくて」

「そうだよな。他の女、抱きたくもなるっつうの」

「それありますよね。浮気も仕方ねえだろって言いたい」



もう本当に、耳が痛い。



世間は少し冷たくないか? 望んで成長しなかったわけじゃないというのに。


だけど、「好き」と「満足」は関係ないのなら、そこに浮気が追随することもまた仕方がないことなのだろうか。



「(……だから、崇も)」



だとしたら、茅野も……?



「諒ちゃん」



その日の夜、お風呂から上がった茅野は、冷えた缶ビールを私の前に見せて「どう?」と笑った。「ありがとう」とそれを受け取って、ソファに並んで座って茅野と乾杯する。


缶を傾けた茅野の髪から水が滴った。



「風邪引くよ」

「引かない」

「(……言い切った)」



他に何もないからと、私が肩にかけていたタオルを茅野の頭に被せる。



「じっとしててね」

「ん」



ソファに膝立ちになって茅野の髪を拭いていれば、とん、と私にもたれかかる茅野。


ちょうど胸に置かれた頭を認識し、昼の話題が蘇れば、どうしようもなかった。私は茅野から慌てて離れている。



「……あとはご自分で」



今さら隠すように、クッションを膝に抱いた。



わかってるんです。


触れられたことも、見られたこともあるから、茅野には全部知られていることも、隠したところで変わるわけではないことも。



「諒ちゃん?」

「……はい」

「どうした?」

「……何も?」



わかってはいるのに、クッションを離せない。


私は顔を埋める。



   

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