第29話

瞼を持ち上げれば、見慣れた天井と遮光カーテンから漏れた陽が目に飛び込んでくる。私はぼんやりと、朝か、と思い、目もろくに開かないが体を起こした。


そして、ようやく、隣にある気配に意識が向いた。



はっとして視線を移せば、綺麗な寝顔が映る。



「(茅野…)」



ぐっすり眠る茅野のあどけない寝顔。



そういえば、と昨夜はたくさん甘やかすように頭を撫でてくれたことを思い出した。


何もせずに茅野の隣で眠ったのは、初めてかもしれない。



もうそういったことはしない、と決めた理由も忘れ、私は、セフレじゃないみたいだ、と思って、泣いてしまいそうなほどこんな朝を嬉しいと思った。


性懲りもなく、愚かなものだ。



そして、その欲求は当然のものとして湧いた。


触れたい、と思って、寝てるからいいかな、と思って、バレないように静かに、静かに茅野に手を伸ばす。けれども、その手は、茅野に触れることもなく怖いと震えた。



「(…大丈夫だよ)」



どこならいいだろうか。



「(茅野は寝てるから…)」



髪は? 頬は? 手は? 腕は?


怯えたようにさまよう手は、きっとすごく迷惑だ。



「(大丈夫…、)」



結局、どこにも着地せず、手を布団の上に落とす。


私は、膝を立てて、そこに顔を埋めながら、



「(まだ大丈夫、だと思う、けど……)」



わかんないな、と少し笑った。




    

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