第23話
夜も深くなり、気怠さに2人でぼーっとする。
眠気と戦いながら、そろそろシャワーを浴びなければ、と思い始めたとき、茅野は、仰向けになり腕を目の上に置いたまま口を開いた。
「つか、短すぎません?」
「短い?」
「スカート」
私は、ベッドの下に捨てられているスカートに目を移し、なんとなく布団をぎゅっと握った。
「短すぎたと思う」
「もうやめましょう。お互いのためだ」
茅野は疲れたように息を吐いた。私はその横顔をちらっと見て、すぐにそれを天井に移しながら頷いた。
茅野は確かに「ミニスカ履いて」とは言っていたが、そりゃあ、何でもいいってわけじゃないか。
「好みじゃなかった?」
「……好み?」
「うん。まあ、失敗したかなとは思ってたんだ」
だめだ、眠気に負けそうだ。天井を眺めながらゆっくり瞬きをする。
「似合うの探す」
「……はい?」
「あ、じゃないか、スタイルの問題……」
重くなった瞼を閉じ、そのまま意識を手放そうとしたときだった。「諒ちゃん」と茅野の声がしたと同時に腰を引き寄せられて、私はぱちっと目を開く。何? と尋ねる間も与えない。茅野はもう一方の手で私の顎を掴んだ。
「噛み合ってる気しねえんだけど、諒ちゃん、俺の言いたいことわかってる?」
「え、うん、スカートが短い……」
「そう。似合う似合わないじゃねえの。スタイルどうこうの話でもない。スカートじゃなかったらいいわけでもねえからな」
「うん?」
「……ほら、わかってない」
茅野は、理解できずに眉を寄せた私の後頭部を、自分の胸に引き寄せた。
「あんま足出さないで、って言ってんの」
それはどうしても甘い言葉に聞こえて、私は茅野の胸に緩みそうな顔を隠した。
「……言ってること違う」
「絶対違わない」
「だって茅野、言った」
「何を?」
「ミニスカ履いてって」
茅野はしばらくの間黙り込んだ。それから、わしゃわしゃと私の髪を乱して、深く息を吐き出した。
「言いました。確かに言いましたけど。それはそうだろ。俺も男なんで、足見えてんのは好きですよ」
「好きそう」
「かなり好き」
かなり好きでも、私のはだめだったのか。
若干落ち込みかけたところへ、茅野は「でも諒ちゃんは嫌」とさらに追い討ちをかけた。
「俺が履いてって言ったの家の中でな。外ではやめようって話」
顔を上げた。
「これ、割とまじで言ってるから」
茅野は、拗ねているのか照れているのか、よくわからない表情をしている。
茅野を可愛いと思って、私は思わず笑った。茅野は不服そうに眉を寄せるが、それすらも可愛い。
「そっか、よかった」
驚いたせいか、眠気がどこかへ行った。この隙にシャワーを浴びに行こうと、茅野から体を離して起き上がった。
「──諒ちゃん」
茅野は寝転がったまま、私の腰に腕を回して立ち上がるのを阻害した。下着しか身につけていない素肌に茅野の手を感じれば、おのずと体に力が入る。
「俺が履いてって言ったから?」
「え?」
「だからスカート履いた?」
「あ……」
「それはちょっと卑怯じゃねえの」
茅野はお腹に回した腕を引く。
「なあ、もう1回したい」
再び天井を映した私の視界に、不敵な笑みが広がった。
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