第3話

解散するころにはその組み合わせはできあがっていた。駅までなのか、家までなのか、はたまた別の場所へなのか、同僚はそれぞれの男性に送られていった。


私は彼女たちを見送って、1人、帰路に就こうとして。



「送りますよ、おねえさん」



なぜか余ったらしい茅野の声に、足を止めた。


私は口を開いたが何も言わないまま閉じ、再度足を動かし始める。そんな無愛想な私の後ろを、茅野はついてくる。



「……今日はうまくいかなかった?」



からかう口調でそう尋ねれば、「そうかも」と曖昧な返答。



「そんな日もあるよね」

「励ましてくれんだ。諒ちゃん優しいね」



茅野は特別落ち込んでも、残念がっても、強がってもいない様子で笑った。


なんで茅野、失敗したんだろう。そりゃあ、百発百中なわけじゃないだろうし、茅野の友達もみんな魅力的だったから、倍率は高かったのかもしれないが、茅野が1番同僚をはべらせていたように思えた。



「諒ちゃんの友達、みんな綺麗な。こっちもすげえ喜んでたよ」

「綺麗な上に気さくでしょ」

「うん、面白かった」

「こっちもみんな楽しそうだったよ」

「諒ちゃんは? 諒ちゃんは楽しかった?」



私はなぜか飲み会中の茅野が浮かべていて、目も合わなかったなと思いながら「楽しかったよ」と声を繕った。


弾んだ声は少し、痛みを引いた。



駅に向かって歩く私についてくるが、茅野も駅を使うのだろうか。



「茅野って、どこに住んでるの?」

「……気になる?」



黙った私に茅野は笑って、どの駅の方向に住んでいるのか、主要駅を挙げて告げた。



「諒ちゃんは?」

「違う方向」

「そっか」



駅に着いて、改札を抜けて、「じゃあばいばい」と手を振ると、使う沿線のホームに向かう。茅野とは違うホームだ。それなのに、なぜか茅野は後ろをついてくる。


足を止めて振り向く。茅野はあきらめたみたいに苦笑を浮かべ、初めて私の隣に並んだ。



「電車なくなるぞ」

「……うん、なくなるから茅野も帰んなよ」

「俺はいいの」

「よくない。私のことは送らなくていいよ」

「そう言うなよ」

「私のこと送ってもらっても何もできないよ。家には上げられない」



釘をさす発言をしたあとで、間違えたって思った。



「わかってるって。何も望んでねえから安心して」



「ほら行こう」と私の肩を引き寄せた茅野も、茅野から離れて1人で足を進める私に笑った茅野も、ただの友達なんだから。



「(…自意識過剰)」



友達の厚意に過敏になる必要なんてない。



    

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