第4話 集落
◆集落
更に歩くと、視界がぱっと明るくなりました。
目の前に、荒涼とした土地が広がっていたのです。
そこは集落のようでした。
トタン屋根の平屋・・バラック小屋がずらりと並んでいました。綺麗なトタン屋根ではありません。所々破れていますし、壁にはヒビが入り、窓も割れている箇所が幾つもあります。
そんな家が不規則に点在するようにあります。
人が住んでいるようですが、子供の目には廃墟のように映りました。
僕は、もっと歩くと展望台のような景色が綺麗に見える場所に出るものと思ってましたが、その期待は見事に裏切られました。
景色は綺麗でも何でもなく、辺り一帯が灰色の風景でした。
そこは、土埃が舞い、雑草が多い茂り、至る所に瓦礫や土砂が無造作に積まれた異様な雰囲気のする場所だったのです。
しかも強烈な異臭が辺りに漂っています。今までに嗅いだことのない匂いです。
鼻を摘まんでも防ぐことのできない臭いです。
父に「臭い!」と訴えると、
「我慢せえ」と言われました。それから、「あそこに住んでる人たちに、絶対に『臭い』と言ったらあかんぞ」と注意されました。
父はここに知り合いの人でもいるのかと思いましたが、それも違うようです。
僕と父は集落に足を踏み入れることなく、そこを通り過ぎるような形で歩を進めました。
父は、バラック小屋の集落を僕に見せたかったのだと思います。父はゆっくりと歩いていました。
その頃は貧富の差が大きかったと父に聞きます。
貧の方はかなり貧しかったそうです。
ですが、その頃の僕はそんなことも知らないし、男と女の区別もはっきりと知らない年齢でした。女の子と顔を合わせただけで顔を赤らめたりしていました。
集落が近づくと更に匂いは強くなってきました。
これは残飯が腐乱した匂い・・いえ、それだけではないようです。排泄物、しかも人間の物の匂いに思えます。他にもゴミを燃やす匂いもあります。その証拠に、集落の端から煙が上がっています。何を燃やしているのでしょうか。
その煙を見ていると、強烈な吐き気が起こってきました。何とか耐えましたが、常に吐き気がしている状態です。
「人間というものはな・・本来は汚れているものなんや」父がポツリと言いました。「汚れているし、くさいものなんや」
何となく分かる気はしましたが、
「でも、僕の家はこんなに匂わへん」僕はそう返しました。
すると父は笑って、「それは家族が暮らしやすいようにしているからや」と言いました。
家族が暮らしやすいように・・それは人間が暮らしやすいように、と同じ意味なんじゃないかな? と僕は思いました。
父は続けて、
「それにここは、水が淀んでいるせいもある・・」と言いました。
水が淀むとは・・水が流れていないということだと思いました。
人間の住む家は水が流れていないとダメだということです。
僕は父の言葉を踏まえた上で、改めて集落の様子を眺めました。
平屋ばかりのバラック小屋の外には、壊れたような洗濯機が数個あり、何台もの自転車が放り出されていました。使っているのか、それとも放置自転車をどこからか盗んできたのか分からないような自転車ばかりです。
小屋の周辺には、何故か水を汲む桶やタライが何個もあります。その中には雨水が溜まっているようです。ここには水道は通っていないのでしょうか?
辺りを見ると電柱もありません。その代わりに出鱈目な電線が木々の間にぶら下がってます。まるでどこからか電気を引っ張ってきているようです。
その時の季節は夏だったということもあり、上半身裸の老人や中年男がぶらぶらと歩いています。そんな光景は僕の住む町では見ることはありません。銭湯で見るくらいです。
同じようにシュミーズだけの女の人が洗濯物を干したりしています。
物干しは集落の共同のようです。女性同士が賑やかに語らいながら、竿に布団を乗せたりしています。
中にはタライでシャツをごしごし擦っている人もいます。
男もそうですが、女の人は特にだらしない格好に見えました。胸もはだけていて、乳房がはみ出てそうですし、隠そうという気持ちがないようです。僕の知り合いの女の人はこんなみっともない格好はしていません。
それら全てが見たことのない光景でした。
生き生きした人間の生活風景だと思いたかったのですが、どうもそんな感じは受けません。あそこの人たちとは関わりたくない。そう思いました。
時折、軽トラックが入り込んでは何かを下ろしては積んだりしています。僕の目にはそれはゴミのようにしか見えません。
車はこんな場所にどうやって来たのだろう、と思います。別に車用の道があるのでしょうか?
それも気になりますし、小屋の周辺には数匹の野良犬がうろうろしています。放し飼いの犬を見たのは初めてです。
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