第5話 並ぶ檻

◆並ぶ檻


 少し集落の様子を眺めていると、バラック小屋から外れた所に、動物園にあるような小型の檻があるのが目につきました。

 金網だけで覆われた箱のような檻です。猿が数匹入れば一杯になるようなサイズです。

 それが複数個あります。

 檻は横に五個ほど並んでいていて、その上に同じ大きさの檻が五個積み上げられています。まるで檻の二階建てです。

 その中に入っているのは、家畜の豚、もしくは犬猫のような愛玩動物かと思っていましたが、違います。

 遠目にも分かります。

 そこにいるのは人間でした。

 しかも、みな僕と同じような年齢の子供たちのようです。

 それに気づくと僕は恐ろしくなりました。

 父は当然のように見ていますが、僕には心が凍りつくような光景でした。

 どうしてこんな場所に子供がいるのか? 

 しかも檻の中に入っているのだろうか。

 どこからか連れ去られて来たのだろうか。

 様々な疑問が一気に浮かびました。


 父は僕と同じように檻を見ながらこう言いました。

「また、数が増えとるみたいやな」

 檻の数が増えている?

 いや、父が言っているのは檻の中の子供が増えているということだと思いました。

ということは父は前にもこの場所を訪れていたということになります。

「前に来たことあるん?」僕が父に訊ねると、

 父は檻の方に目を向け、「知り合いと一度来たことがある」と答えました。

 知り合いというのは父の友だちでしょうか。


「見てみるか?」と父が言いました。

 その言葉を聞くと、まるで子供たちが動物園にいる見世物のように思えます。

 けれどそこにいるのは人間の子供です。動物ではありません。

 僕と同じく、小学校に通う年頃の子供です。

 それともあの子供たちは学校には通っていないのでしょうか? 通わせてはもらえないのでしょうか?


 怖いもの見たさだったと思います。

 僕は檻に吸い寄せられるように近づいていきました。父も止めたりしませんし、集落の人も僕を気に留めませんでした。僕のような子供には無関心なのでしょうか。

 その時の僕は、どうしても知りたかったのだと思います。

 自分と同じような年齢の子供たちが檻の中に閉じ込められている。

 それがどうしてか分からない。その理由がどうしても知りたかったのです。


 檻に近づくと更に子供たちの様子が見て取れました。

 ある子供は、檻の中を這っています。その姿は何かの動物のように見えました。

 ですが、僕の中の道徳観念や良心がそんな風に彼らを見てはいけない、そう言っていました。

 ですが、そう見えてしまうのも事実です。

 檻の網をギシギシと揺さぶり出ようとしている子もいます。

 更に胸を痛めたのは、檻には小さな扉があり、そこから入れたのか、小皿に盛られた食事のようなものと飲み水があります。まるでエサです。その奥には排泄をする場所もあるようです。


 僕は独房の中を見たことがありませんが、この檻は独房なのだと思いました。

 それに子供たちが着ているのは服と呼べるものではありません。ボロ布をマントのように羽織っています。下着を着ているかどうかも疑問です。

 顔も薄汚れています。お風呂には入ってはいない。いや、入らせてもらえないように思えました。

 匂いの元がここだったかとうかは分かりませんが、更に匂いがきつくなった気がします。


 数人の子供たちが僕をじろじろ見ています。

 睨んでいる子もいますし、恍惚とした表情・・目が定まらず僕を見ているのかどうか分からない子もいました。

 そのどちらのタイプもここから出たいのかどうか分かりません。

 でもここから出たいと思っている子がいたとしても、僕はどうすることもできなかったでしょう。


 この集落では子供を飼っているのか?

 そう思いました。いえ、そうとしか考えられなかったのです。

 檻は高さが低く、彼らは檻の中では立ち上がることができません。皆、中を這うようにして移動しています。隣の檻の子と会話をしている子もいます。

 檻にはようやく人間が通れるほどの金網の窓のようなものがありますが、しっかり施錠がされていますし、誰も出ようとはしていません、


 僕はつたない頭で想像しました。

 どうして子供たちがこんな檻に入れらているか? その理由を考えてみました。

 もしかしたら、この子たちはサーカス団員の子供かもしれない。何かの訓練でここにいるのかもしれない。

 けれど、どう見ても訓練には見えません。まるで家畜のような扱いです。

 

 次に考えたのは、ここに入っているのは今日だけで、明日には解放されるかもしれないということです。だったら、どうして、今ここに入れられているのか?

 きっとこれは、お仕置き・・体罰のようなものかもしれない。彼らは何か悪いことをしたのに違いない。そう考えたりもしました。

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