第2話 入れ替わっちゃった?
一、入れ替わっちゃった?
「うわっ! いきなりなにをする!」
「ボクを引っ張ったのは、お兄さんの方でしょ! ファーストキスだったのに」
今にも泣きそうな顔をされ、全てを目撃した和穂は、慌ててふたりのあいだに割って入った。
「えっと多分ぼくの予想が正しければ、馨ちゃんはそっちだと思うけど、兎に角ふたりともお互いをよく見てみて!」
言われてお互いの姿をよく見てみる。
「あれ? どうしてボクが目の前にいるの?」
「それはこっちの科白だ。どうしてお前が俺の姿をしている」
「ほんとに前代未聞だよね。天敵の鬼と妖精の精神が入れ替わるなんて」
「は?」
「今なんて言った? 和穂?」
頭ではわかっていても、信じたくなかった現実を突きつけられて、馨は絶句する。
妖精はあまり鬼を敵視していないが、鬼を筆頭とする魔族は、妖精をかなり敵視している。
その強大な力故に無視することができないからだ。
その点妖精は好戦的ではないので、そんなに気にしてないみたいだが。
その天敵たる妖精と精神が入れ替わるなんて、冗談じゃない! の世界なのだった。
厳しい父に知られたら殺されるというのが、偽らざる本音である。
馨には恐れるものは滅多にないが父親だけは例外だ。
後泣かれると弱いのが母親。
その辺は馨はしっかり高校生だった。
「精神が入れ替わったのは仕方ないとして」
「仕方ない? 仕方ないと思ってるのか、お前は?」
「じゃあお兄さんなら、この状態を元に戻せるの? 言っておくけどボクには無理だよ。ボクはまだ本来の力発揮できないから」
それに肉体が変わったことで
力が制約を受けている可能性もあるし。
響は口には出さなかったが、そこで考えが及んでいた。
「泣き虫ちゃんは結構しっかりしてるんだな。さっきまで泣いてたのに、今はもう前を向いているなんて。馨ちゃんも見習えば?」
「これが落ち着いていられるか。お前なら落ち着いていられるのか? 和穂?」
「さてね。ただひとつわかっていることは、このまま戻らないと非常に拙いってことだけだ」
「さっきから気になってたんだけど、お兄さん馨って名前なの?」
「そうだ。高等部2年の響野 馨。一応生徒会長だが、中等部じゃ知らないか」
「驚いた。ボクと凄く名前似てるんだね。ボク。中等部3年の薫 響」
「薫 響?」
その名の持つ意味を何処かで聞いた気がするが、馨は思い出せなかった。
ただわかったのは、これがただならぬ事態だと言うことだ。
和穂の言う通り。
「父上ならなんとかできるけど、父上には逢えないし」
「どうしてだ? 緊急事態なんだ。例外くらい」
「無理だよ。掟だから逢えないものは逢えないの!」
言い切ってから響は、馨に聞いた。
「お兄さんの方はどう? 身内になんとかできそうな人いないの?」
「可能性があるとしたら父親くらいだが、お前響だったか。お前たち妖精族と魔族の対立を知らないのか?」
「知ってるけど妖精王を殺せないから意味ないでしょ? 妖精王を殺せたら、世界は滅んじゃうんだから」
そこまで言ってから響は一言付け足した。
「気にしないでね? 鬼の力が劣っているって意味じゃないから。それが世界の真理なんだから仕方ないよね。そのために妖精王は王位を継いだら、天界に住むのが慣わしなんだから」
確かにその通りである。
しかしだからこそ一層確執は深くなるのだ。
鬼の実力不足ではなく、世界の真理というどうしようもない掟のせいで、鬼は妖精王に勝てないのだから。
好戦的な鬼にしてみれば、それは屈辱でしかない。
この幼い妖精にそれをわからせるには、一体どうすればいいのだろうか。
「とりあえずさあ、馨ちゃん。このことお館様に報告したほうがいいと思う。後でバレるよりマシだと思うから」
「しかし」
「なにより百戦錬磨なお館様なら、この現象について何か知ってると思うんだよね。手の内を隠すより明かすべきだと思うよ。事情によっては、この子のこともよくしてくれるかもしれないし」
「呑気だな、和穂は」
しかし今頼れるのが父であるホムラしかいないことも確かなのである。
仕方がないかと馨は響に手を伸ばし手首を掴んだ。
「どこへ行くの?」
「俺の家だ。なんとかできる響の父上に逢えないのなら、次に何とかできそうな可能性を秘めている俺の父上を頼るしかない。居心地が悪いかもしれないが、我慢してくれ」
「怖い人かと思ってたけど、ほんとは優しいんだね」
ポツリ、と溢れたその言葉は、馨は聞こえなかったフリをした。
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