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わしは今、それはもう、たいへんに困っている。
わしの住んでいる場所は、そりゃあもう辺鄙な田舎だ。若い奴らは不便じゃ言うて都会に出ていっては戻ってこない。
わしの面倒だって誰も見てくれんくなって久しいが、そんなことは問題ではないのだ。山奥の田舎にひとりといっても、昔からそうだったし、今更それをどうこう言うつもりはない。わしにとっては静かで良いぐらいじゃ。
それでも、たったひとり、毎日わしの住まいを掃除してくれている女がいる。
今の悩みは、その女のことだ。名前はミサコという。大人しいがよく出来た女だ。顔はちょっと、そんなに美人じゃないがな。わはは。だが、昔っからよく気の利く、気立ての良い女での。よく働き、真面目も真面目な性格だ。
しかしな……彼女はいま、村八分に合っておるんだ。
村八分。知っとるか、この言葉。そう、村人の大半が彼女をハブにしとるんだな。挨拶もしなければ、話しかけられもしない。ミサコが口を開けば無視どころか、嫌味が返ってくる有様だ。
要はイジメじゃ、イジメ。もちろん回覧板は回ってこないし、ゴミ捨てもできない。ミサコが捨てたゴミは、いつの間にかミサコの家の玄関の前に戻されとる。ひどいときには別の家が出したゴミまで、ミサコの出したゴミと一緒に置かれとる。いまやミサコの家はゴミ屋敷になってしもうて、あんまりにも哀れなもんだ。そんなだから、匂いもひどくて、もうミサコの身体も臭くてな。
村の奴らはそんなミサコを指さして笑うんじゃ。あー、くさい。くさいやつが来たぞ。まるで糞便じゃ言うて。ミサコも女じゃ、ひとりで泣いて生活しとるわい。最近は飯も喉に通らんのだろう。痩せ細ってきて……すっかり骨と皮になっちまっとる。それをみて、ほかの奴らがまた指さして笑うんだな。
小さい村で、役場、駐在、まるで役に立たん。役場もまるごとグルでな。なんたって、村まるごとのイジメだ。過酷だ。周りの人間の全部が敵だ。
何よりも恐ろしいのは、イジメがいつから始まったのか……もう誰も覚えとらんし、原因がなんじゃったのかも誰にもわからんのだ。
昔からみんな顔見知りだったはずなのに……昔はこうじゃなかったはずなのになあ。
ただ、こんな空気ができてから、みんなそれが当たり前のようにミサコをイジメている。それが至って普通の日常になってしまっているんじゃ。
だから、イジメはまったく止まらんし、どうすればいいのかまったくわからん。
なあ、この状況、なんとかならんか?
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