3




 

 どうやら梨沙が照明のリモコンを下敷きにしたらしい。


「梨沙、その、な、なんて言えば、、、」


 暗がりの中、俊也は激しく動揺していた。



 ――どうして着けてないんだ。

 そう考えるのが、やっとだった。

 


「こ、こっちこそごめん、、っ」

 裏返った声で梨沙が謝ってくる。

「お見苦しいものを、、、」

「そ、そんなことはないけど……」

 俊也の言葉を最後に会話が途切れる。

 ――すぐそこのリモコンに、どちらも手を伸ばさずに。


「っ、そだ、俊也の浴衣、拭かないと……っ」

「――! 梨沙っ、ちょ待っ、今はっ……」

 手探りで近づいた梨沙がバランスを崩す。


「――ぁ、え……っ⁉︎」

 梨沙は瞬間、言葉を失う。

「俊、也……?」

 戸惑う梨沙に、彼は何も言わなかった。


 ――その身体の変化はとても。


 友情の二文字で説明することは、できなかった。



「――き、気にしないでよ俊也! 俊也も男の子、だもんね。女のナマチチなんて、見たらそりゃこうもなるか、あはは……」


 浴衣越しにぺたぺたと触りながら、梨沙は何でもないように振る舞う。

「こ、こんなふうになっちゃうんだ……へ~……」

 まるで初めて触るように興味津々と。

「ちょ、梨沙ほんとやめろって……」

 言葉とは裏腹に、無意識に受け入れてしまっている自分が恥ずかしい。

 多分経験があるのだろう友達に、触られている――そんな状況に理性で抗うには、俊也はまだ、若過ぎた。


 抵抗しない俊也を見て、梨沙は悪戯っぽく囁く。

「つーかわたしのこと、そんな目で見てたの? 友達なのに、いけないんだぁ……」

 その手はだんだんと、さするように変わる。

 彼女の息遣いも、ほんの少し――熱を帯びる。


「っ、梨沙、いい加減に……!」

 気丈な言葉も、しと、と唇が触れ合えば。

 意識がとけて、宙に舞う。

 唇の感触と甘い香り、ひしと回された腕の感触が、彼の脳を埋め尽くしていった。



「――嘘、なんだ」

 口元を離した梨沙は、罪を告白する。

「彼氏なんて嘘。ホントはずっと……」

 梨沙の瞳が、暗がりに揺れる。

「っ、バカだよね、ほんと。忘れたくて遠ざけてたのに。いつかまた遠くの街へ行っちゃうのに……」

 瞬間、俊也は引き裂かれるような痛みを胸に抱く。

 けれどそれは事実だ。休学が終われば。

 自分はこの街を去らねばならない。

 再び彼女と、離れなければならない……。


「ねぇ俊也、教えて。このままキレイに終わるのがいいの? それとも……」

 答える代わりに、口付けあえば。


 梨沙は見開いた瞳を、静かに閉じる。


 二人は湧き出でた自然の感情へと……心を委ねていった。



――――

……

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