秋の夜風に吹かれてみれば

@ramia294

第1話

 夏の後ろ姿を見送ると、秋のひんやりとした空気に、半袖の腕が、心地よい季節到来です。

 遅くなった帰り道。

 バスを降りると、まん丸のお月さまが、笑っています。

 お家まで迄の帰り道、バス停の灯りが作る私の影が、長くなった頃、健ちゃんの住んでいたお家があります。

 幼馴染の健ちゃん。

 私たちが、小学生の五年生の頃、お父さんのお仕事の都合で、引っ越して行きました。


 初恋というほどのものでもありません。

 ただ、仲良しの男の子。

 毎日遊び、

 楽しかった思い出の時間が、今は懐かしいです。


 今は、大人の私。

 あれ以来、恋する事もなく、

 いいえ、恋する暇もなく、

 お仕事に頑張る、キャリアウーマン。

 (死語かしら)


 次の街灯に短くなってゆく影。

 今夜は、明るいお月さま。

 街灯の作り出す影もお疲れ気味。

 肩落とす薄い影。


 お仕事失敗の帰り道。

 迷惑をおかけたした皆さん、

 ゴメンナサイ。


 ジンワリ涙が……。

 でも、明日も、またまたお仕事です。

 泣いてなんかいられません。


 見上げる空。

 止める涙。

 お月さまから、伸びる赤い糸。

 えっ?

 今夜は、まん丸お月さまから、何かが伸びて行く。

 伸びて行く赤い糸は、私の方に。

 スルスルと伸びる赤い糸。

 私の胸に触れて、消えてしまいました。


 あれは、何だったのでしょう?


「ただいま」


 こんな日は、わざと元気よく帰ります。

 今夜の玄関は、靴で賑わっています。

 お客さまの様です。


 ドアを開けると、そこには見知らぬ男の人。

 背の高いイケメン。


「おかえりなさい」


 ん?

 誰だ君?


 私には、イケメンの知り合いは、いませんよ。


 奥の方から、お母さんの声。


「健ちゃんよ。覚えているでしょ。あなたの初恋のお相手の健ちゃん」


 あら、そういえば、面影があちこち点在されています。

 でも、初恋では、なかった様な……。


「本当に健ちゃん?懐かしい。大人になったわね〜」


「調子狂うな。同じ年齢、ミキは同じ誕生日だろう」


 そうでした。

 健ちゃんと私。

 同じ誕生日。


 子どもの頃は、お互いの家で誕生日会を交代でしていたのです。

 もちろん両親ともお友だち。


 健ちゃんのお父さん。

 偉くなって、この地の支社長。


 おそらく、引退までこの土地で、また頑張る事になりそうです。

 お父さん、大喜び。

 早速、ビールで乾杯しています。


 その日は、夜遅く昔話が咲き乱れました。

 この週末に、あのお家に引っ越して来るらしいです。


 遅くなった帰り道は、健ちゃんが運転。

 大人になった健ちゃん。


 帰り間際のリビングのドア。

 健ちゃんが私にそっと言いました。


「大丈夫か?職場で何かあったのか?元気過ぎるときのミキは、いつも何かあった時だからな」


 覚えていてくれたんだ。


「ん、ちょっと。でも大丈夫。今夜は楽しかったからね。色々の失敗は、何処かへ行っちゃった」


 あれ?


「健ちゃん、糸くずついているわよ」


 健ちゃんの胸から、何かぶら下がっています。

 

「え、どれ?」


 健ちゃんには、見えない様です。

 私が手を伸ばして取ろうとしても、その赤い糸は、手をすり抜けてしまいました。

  

『目の錯覚?疲れているのかしら』


 いえいえ、赤い糸は確かに見えます。

 よく見ると、健ちゃんからずっと伸びて、私の胸に繋がっています。


『変なの』


 疲れているんじゃないのと笑われ、その日、健ちゃんたちは、帰って行きました。


 その夜、ベッドの中、あの赤い糸の正体に、突然思い当たりました。

 あれこそが、話に聞く、運命の赤い糸。


 驚いて、昔にした健ちゃんとの約束を思い出しました。


「私が健ちゃんのお嫁さんになるわ」


 少し恥ずかしく、甘酸っぱい思い出。

 やはり、初恋だったのでしょうか?

 

 今週末、健ちゃんたちのお引っ越しのお手伝いを約束しています。


 その日、私の初恋を確かめに行こうと思います。




    それから、しばらくして、

    私は、六月の花嫁になりました……。


         


          終わり

 

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