プロローグc 赤の世界

2018年7月7日「発現」。

この日は人類の初の月面着陸に向けたプロジェクト大成の記念すべき日になるはずだった。戦後唯一残った真城財閥の資金、そして真城財閥の一人娘にして世界最高の頭脳を誇る真城真美を中心とし世界各国から優秀な人材を惜しみなく投入したこのチーム。

当然のように彼女らは月面着陸は成功させる。

人類が宇宙に向けた一歩を刻んだ歴史的に日になったのは間違いない。

だが問題が起きたのはその後。

未だ因果関係がはっきりとされてはいないが、この人類の躍進にかぶさる形で起きたアクシデント...革命..いや、やはり「発現」と呼ぶのが相応しいだろう。

平たく言えばこの日人類の一部の人間はいわゆる「超能力」を使えるようになったのだ。

あるものは何もないところから物体を生み出し、あるものは身体がまるで獣のようになり、あるものは自分以上のサイズのものを自由自在に操った。後にこの超能力は「能力(コード)」と呼ばれ、能力を持つ者達は「レコーダー」と呼ばれた。


コードのもたらすものの規模に個人差はあれど所詮は個人。

勿論身体能力が強化されたものもいたが、日本が保有する既存の軍隊が対抗できないものではなかった。

これなら少々の問題で済む程度の治安維持システムがこの日本という国には備わっている。

しかしそれは相手が個であることが条件なのだ。


問題は「超能力が生まれたこと」ではない、この日それと同時に起きた「日本国外の通信、物理的アクセスの完全遮断」、そして「大量の行方不明者の発生」だった。

主に海外からの在留者を中心に忽然と姿を消した。

そして国交の物理的断然。

突然大量の人間が消えたことによる恐怖、そして食料自給率が100%でない国の貿易の完全遮断による国内のパニック、そこに加えて「超能力の発生」。

「身体の安全」、「食料の危機」を前にこの国の治安は呆気なく完全に瓦解した。


この混乱の最中、警察、軍隊を総動員しても「暴徒と化した一般人」と「レコーダー」を同時に相手することはできなかった。

そして発現から3か月後に起きた、初のレコーダーの集団と一般民衆による東京を中心に起きた大規模暴動。後に「アギト事変」と呼ばれるこの事件は多くの政府関係者だけでなく、多くの人々が標的にされ命を落とした。その犠牲者の中にはあの「真城真美」も居た。


この大事件がとどめとなり、政府は逃げるように都市機能の全てを北海道に移転することとなった。

この事件以降各地で「グルーヴ」と呼ばれるレコーダーを中心とした組織が発足。

法の秩序が消え、力がモノを言う時代の到来。

それから一年本土はグルーヴ同士の抗争がそこら中で起きていた。


そんな中、本土に残った真城財閥当主真城吉儀、そしてその娘と瓜二つの姿をした「全能」を持つ者の手によって治安維持能力者混合組織「エイワズ」が発足。

最終的に抗争を勝ち上がった4つのグルーヴ「アギト」、「クラウン」、「関西グルーヴ連合」、「ユグドラシル」と政府の間を「エイワズ」が取り持つ形で行われた「4大グルーヴ協定」によって、4つのグルーヴに政府が独自の自治裁量権を認める形でこの一連の騒動は終息した。

これにより日本はかろうじて国の治安維持の機能を維持することに成功した。



そしてここにいるボロボロ少女の話はそれから約3年後のお話。



春を迎えるにはまだほど遠く、コンクリートを激しく打ち響く雨は容易に彼女の体温を奪っていった。

この細い路地からすぐの表通りでは雨音をかき消すほど、人々が賑わっていた。

この東京から外れエイワズの管理下にある41区東埼玉では月に一度二日続けて行われるバザー祭だ。この二日間は百貨店や個人商店も含めた計206店舗により路上で特価品などのを中心とした販売が行われる。もともと町を活気づけるために小さな商店街が中心となり取り組んでいた行事ではあったが、「発現」以降に東京で起きた大事件「アギト事変」後に東京から流れてきた百貨店なども合流し、ここ数年は県外からも多くの人が来訪しているビックイベントとなった。あいにくの天気であるにも関わらずまるで以前の東京の首都のような盛況ぶりである。皮肉にも貿易の完全停止、経済をか辿っていた大型グループの壊滅による大型スーパーの消滅はこうして地元の活気を取り戻した。

だが路地で座り込む彼女がその中に混じることはない。

人混みが嫌いなのではない。祭り事が嫌いなわけでもなわでもない。

同い年の子たちが華やかな浴衣を着て遊んでいる姿はほほえましく見ているだけで笑みがこぼれる。

百貨店に負けぬように商店街の出店の傍らでは、店員や地元の人たちが客寄せのために大道芸は人だかりで見えなかったがその歓声の大きさに拝むことができなくてもつい寄ってしまう。

気に入ったおもちゃを駄々をこねて両親を困らせる少女、それを両親ではなくあまり年の離れていないお兄ちゃんがなだめている姿はとても微笑ましい。

ただその感情よりも何より


ーそのすべてが妬ましくて仕方ない。


泥のような嫉妬の中にいる自分が嫌いだ。

私だって

私だって着物を着て走り回りたかった。

私だって

私だってみんなに混じってあの鼻の赤く膨らんでいる人の芸を見て目を輝かせたかった。

私だってお母さんやお父さんとどこかへお出かけしたかった。

もう街の綺羅やかななものも私の眼には眩しすぎて入ってこない。そのどれもに私の汚い感情が移りこむ。

でも私にはそれが欲しい、

それが必要。

それこそその光たちの一つくらい

一つくらい奪ってしまっても...

この街のどこにも。

あるいはこの世界のどこにも彼女の居場所はなかった。

誰にも気づかれることなく路地の奥へと歩き出す。


彼女の孤独は日本に起きたこととは何ら関係ない。

彼女はただ独りにならざるえなかっただけだった。


人は自分にないものを求めると誰かが言った、

人の欲に際限はないと。

だからこそ、自分にあるものを見つめなおしなさいと。

他人の物をうらやんではいけない、

他人の幸せを欲しがってはいけない。

善人であるために他人に与えられる人にならなければいけないと、

私が好きだった画面の中のヒーローもそんなことを言っていた。

その在り方に私は憧れた。

いつだって誰かを助け、見返りなど求めずに弱きを助け強きを挫く。

そんな彼らのあり方を私は自分のあり方にしたかった。

でも、そんなことはできなかった。

違う。

できなかったんじゃない私は満たされなかったんだ。

結局は見返りを欲してしまう愚かな人間だったんだ。

誰かに感謝されたい。

みんなに尊敬されたい。

有名になりたい。

かっこいいといわれたい。

誉められたい

認められたい

そして

そして誰かに愛されたい。

でも私には

私には誰かを助けられるものなんて持ってなかった。

在るのは泥のようななにかだけ。

私が持っているものは誰かに与えられるものじゃなかった。

なんで私だけがみんなと違うのかがわからない。

なんで私がお弁当を持ち帰るだけで指をさして笑うの?

なんで私とはお話ししてはいけないの?

なんでみんな学校に行けるの?

なんでみんな誰かと楽しそうに話しながら歩けるの?

なんでみんな自転車をもっているの?

なんで

なんで日が落ちるころに街は美味しそうな匂いがそこら中から溢れているの?

なんで

なんで

みんな

お母さんとお父さんがいるの?


その答えだけは知っている。

わたしは...


その答えを彼女は飲み込んだ。

その答えを認めたくはない。

認めたらきっと本当に彼女は壊れてしまう。


三日も前から行き場もなく歩き続けてきた。

彼女はこの街の人間ではない。

両親は娘をいない者として扱い、そして彼女はその通りそこから出てきただけだった。

行く場所も帰る場所もない齢13歳の彼女はろくに食べることも飲むこともせずに歩き続けていた。

行ったことがない場所に行けばきっと何かあるかもしれないと。もしかしたら...


しかし彼女の期待が叶う場所などどこにもなかった。


身体的は多少やせているが、病的なまでのものではない。ここ三日間のことがあれど、見た目としては普通の女の子だ。

だが彼女の中身はぐちゃぐちゃだった。

ただ昔あこがれた偶像だけが彼女の心を支えていた。

だがその柱も時機に泥に飲み込まれる。

そうでなくとも肉体的にも限界だろう。

どうせ彼女はもう終わり。

誰にも愛されず、誰にも見られることなく人生を閉ざす。

立ってることも限界な彼女は路地に倒れこむ。

そしてそのまま彼女の意識を失った。


あれからどれほどのときがたったのだろうか、誰かの声が響き彼女はその虚ろな目を開ける。

視界に入るのは汚い壁のパイプから地面へ勢いよく垂れる雨水。

耳に入るのは誰も通らない道に響く雨音。

トタンが今にも壊れそうな音を響かせる中に、川のように流れる水の超えて、彼女の体を激しく打つ雨の先にある誰かの叫び声を彼女は聞いた。

外れそうなパイプの留め具に手をかけ、体を手繰り寄せ彼女は立ち上がる。その声に向かって歩き出す、もう何もない彼女はただ歩みだす。

確かに聞こえた悲痛な叫びを聞きその方向へと動き出す。

彼女に何ができるだろうか。

同年代の平均からでいえば彼女の体重はとても健康体とは言えない。

肉体を補う知恵があるわけでもなければ使えるコードもない。まして3日何も口にしていない少女など役に立たない。

これから向かう先にあるものに、かすかに聞こえた悲鳴の原因を解決する力など持ち合わせてはいない。

そもそもあのまま野垂れ死ぬであってであろう者が動いていることだけでも奇跡に近い。

それでも欠片ほどに残った何かが彼女を突き動かす。

お気に入りのゴーグルの内側も雨に濡れる。

リストバンドも腕の重しにしかなっていない。

それでも彼女は歩き続ける。

声の方向へ。

誰かの叫びへ。

狭く街灯の一つもなく、差し込んでいるはずの光も分厚い雲に遮られ彼女の足元を照らすこともない。

薄暗い道の先迫る人影を彼女の瞳に映る。

迫ってくる水の音。

この激しく視界を覆うカーテンからもわかる程度に人影の息遣いが耳に。そして自分と同い年くらいの子がぼろぼろの服を着て、ぐしゃぐしゃの顔で私のもとに走ってきたのだ。

紫色の瞳の少女は目の前にいた彼女に驚いたのか足を滑らせてしまう。

ーきれいなめだなあ

飛び込むように転んだ少女の身体はさまよう彼女と一緒に倒れこむ。

彼女は後頭部から落ちたが、全く力も入らず倒れたおかげか大事には至らなかった。


今胸の中にいる少女の震えが寒さからくるものではないことを彼女はよく知っている。

だからこそ声を聴かずともさきほどの叫びの主がこの子であることも理解した。

「ごめんなさい。」

自分に対しての言葉が聞こえる。

だが当の本人は全く別ことを思っていた。


少女の来た方から傘もささずに男たちが走ってくる。

それを見た彼女は、理解してしまった。

状況を。


ここにもヒーローは居なかった。

私もきっとこの子も誰にも助けられない。

この世界に都合のいい台本はない。

不幸のどん底に灯される光なんてない。

ああそうか。


やっぱりわたしは


わたしには救われる価値はなかったんだ。


ふとのしかかっていたものがなくなる感覚がした。

男の怒声。胸から消えた少女の声にならない悲鳴。

見ると少し奥で殴られている彼女がいた。

一度ではない。

二度、三度と叫びも挙げられず咳き込みお腹を押さえ少女はうずくまる。

男たちが何をしゃべっているかはわからない。

ああでもあの感じはわたしの両親がわたしを怒っている時と似ている。

少女への説教が終わったのか三人のうちの一人が私をつかみ一瞥し何かを呟くと、無造作に路地の私が来た道へと放り投げられる。

先ほどとは段違いの衝撃が入り、彼女の体に多くの損傷を与えたが今更痛みを感じることもない。

ああヒーローは居ない。

ここまで歩いた先にも、誰かが助けを求めいても手を差し伸べるものはいなかった。

最後の希望も...


やっぱりわたしはいてはいけないにんげんなんだ

だれかになにかをあたえることも、あたえられることもない。

ここでおわったほうがいい

わたしはたすけられるかちなんてないんだ


重くなる瞼

途切れ行く四肢の感覚

弱くなる心臓の鼓動

最後の最後まで彼女は世界から手を差し伸べられることなどなかった。

その答えを現実を彼女は飲み込んだ。


だけど



わたしにかちはないかもしれない


でも


あのおんなのこもそうなの?


なんでかのじょにたすけはきてないの?


そんなのおかしい


だってあのこは苦しんでる中でも私のことを気遣ってごめんと言えるいい子なんだ。



あんなにもかのじょはたすけをもとめているのに


だれかの手を求めているのに

あんなにもふるえていたのに

あんなにも懸命にもがいているのに



...私はなんで少女が抱えられ連れていかれる光景を見ているだけなの?


なんで私は彼女を助けない。

なんで私は動けない。


なんで私は見ているだけなの?


だって私にあの子を助ける力がないから


違う


だって苦しいのは私だって同じだから


違う!


だって私が関わったところで私もひどい目に合うだけだから


違う!!


だってわたしに助ける気はなくてヒーローがいるかもと思って来ただけで..でも居なかった


そんなの認めない!


だってここで立ち上がったらもう


...うるさい



もう2度と私は救われる側にはなれないから


「違う!違う!うるさい!!!黙れ!!!!」




黒い泥を振り払うように

その奥底から這い上がるために彼女は叫ぶ

何も持たぬ体で

何も成せぬと一度はあきらめた自分を奮い立たせる

左手を前に、右足に力を籠め、左足でコンクリートを蹴り飛ばし、最後尾で少女を肩に担ぐ巨漢へに飛び込む。

そして思いっきりわき腹をかみついた。

ブチッと肉をちぎる音、その激痛に男は叫びをあげ体制を崩すともうぐったりとしていた少女も落ちた。

巨漢の男は姿勢を崩したまま一つ前に居た背の小さな男を体で押しつぶしてしまった。

男たちの上に乗るような形で居た彼女はすぐに何が起きたかと驚いている先頭の男に視線を向けながら、後ろで倒れている少女に向かって叫んだ!

「逃げて!!!」

その叫びにコクンとうなずき紫色の瞳の少女は走り出す

同時、決して振り返ることなく巨漢の男が腰に差していたバールのようなものを何かを両手で抜き、振り上げ先頭の男へと襲い掛かる。

「クソガキがあ!」


あれほど冷え切っていたからだが熱い。

胸の奥から込みあがってきた液体の所為で呼吸がうまくできない。

鼻からもうまく空気を出せない首もうまく動かない。

男が少女を追うため駆けだす

だが右の手から刃が出ている彼が左足を踏み出すことはなかった。

「...ゴボ..いがぜない...」

右の手でつかみ左腕でしがみつく。

死に体の子供のなど簡単に振り払える

ましてや彼ならばそんなもの一振りで済むのだから。


左の前腕部のあった場所が、右手首より先が今までにない激痛と熱を持つ。

起き上がることも、できない。

出血も止まることはないだろう。

数分と持たずして彼女は絶命する。

そんなものが成人の、それもレコーダー相手に何の障害にもなるわけがない。

なるはずが

「なんなんだよおまえ...」

なるはずがないのだ

視界が閉ざされ、意識が遠のく。

それでも彼女は再び立ち上がり刃の男をにらむ。けっして少女のもとへとは行かせないと。両の腕が地面から離れることがなかろうと、腹から滝のように血を流そうと。

彼女は立ち上がった。ほんの少しでもあと数秒の命だろうと、そのすべてをあの少女が逃げ切る時間を作るためだけに。

ただ彼女に使えるものはもう本当にない。立ち上がっただけでも奇跡、ほんの数十秒とはいえ、行き倒れる寸前の女の子が巨漢から少女を開放し、少女が走り出すだけの時間を稼いだ。

もう十分な働きを、それ以上のことを彼女はやり切った。

だが数分も立たずして逃げた彼女も刃の男に捕まるだろう。そして血まみれの彼女のことなど誰も知らず、誰もわからずその命を終える。彼女の戦いに勝利もなく、喝采も上がらない。 

一瞬は彼女の気迫にたじろいだ刃男だったが、それがもう立っているだけの死体であることを理解すると彼女に背を向け走り出した。



「助けて...」

誰にも聞こえない願いは、

だがそれでも「それ」の耳には届いた。

「いいよ!」

たとえここが奈落の底だろうとも届く底のない明るい返事。

少女の顔の血を先ほどの男や、倒れている男とは違うきれいな手が拭う。

「結局、誰も君に手を差し伸べなったけど僕なら君を助けてあげれるよ!」

満面の笑顔なのだと声色で分かる。

中性的な声を響かせ少女へと手を差し出す。

「...を助けて」

「もちろん助けてあげるよ。」

ほら、はやくと言わんばかりに差し出した手を彼女の右手があったあたりに伸ばす。

「あの子を助けて...。」

いつの間に元通り繋がっている彼女の右手に触れることなく青年の手が止まる。

まるでぼやいたような声だったが、それが彼女の本当の願いであることが彼には分った。

そんな健気な願いを聞いた青年の顔はとてもひきつった笑顔をしていた。

「嫌だよ。あの子には君が手を差し伸べたじゃないか。僕が助けたいのは君なのに。」

「そんなのいい、あの子を助けて。」

その目をみた、うるさいほど眩しかった筈の青年の瞳は虚ろになっていく。


ああ...彼女はもう助からない。僕でも救うことはできない。


少女に彼の心情の変化を汲み取るような余裕はない。

青年は諦め、彼女の肩を叩く。そしていつの間に彼女の後ろに立った。

「じゃあ、君がちゃんと助けてあげなよ。」

そして彼の手は少女の背を強く押した。


「てこずらせやがって。おいあっちで伸びてるバカを起こしに行くぞ。」

巨漢の男がうなずくと、顔に新たな打撲痕が増えた少女を担ぎ、取引場まで運ぶために用意した車のもとへ向かおうとした。

「?」

だが、持ち上げた少女の感覚がない。

見ると確かにかつでいたはずの少女が消えた。

「は?」

また性懲りもなく逃げたのだろうか、周りを見渡そうとし首を左に向けた。

「...ッ!??」

廃墟となったビルの壁に巨漢の頭がたたきつけられる。

なにが起きた。

目の前で吹き飛んだ男を見てすぐさま戦闘態勢に入った刃の男だったが、敵を目視できないどころか、二撃目が巨漢の顔にたたきつけられた。

顔の半分をコンクリートの中へとめり込ませ完全に気を失う。

「どこだ!」

把握しきれない状況、何もできぬまま仲間の一人をやられた刃男が半ばやけくそ気味に声を荒げた。

落ち着かず周りを見渡す。再び視界を元に戻したとき彼の敵は目の前に立っていた。

「さっきの...。」

敵の正体を認識した瞬間男は下腹部に強い衝撃を覚え表通りまで吹っ飛ぶ。

客寄せの大道芸人を囲む群衆の傍に飛ばされた彼を見るなり、周りの人々は悲鳴をあげ逃げ出す。

「おい!!!」

起き上がる男も、あわてる人々が大きな声のした先を見上げる。

ふっとんだ男の前にある百貨店の上に立つ小さな影。

ぼろぼろの服、サイズの合わないゴーグルをつけた少女がいる。

彼女は決めポーズをとり、頭の中で昔憧れたヒーローのセリフを思い出す。

そして腹の底から声を轟かせ名乗りを上げた。

「私は!colorsレッド!」

右目の部分はフレームのみ、左も割れ欠けヒビの入ったゴーグルを目に当て、後ろのひもを縛る。

「ぶっ飛ばすぜ!悪の組織!!!」

そしてそんな今じゃ受けないだろうダサい決め台詞を、民衆にはわからないだろうが顔を赤くした少女が吐いた。




治安維持部隊エイワズのが移動の際使うサイレンがあたりに響く。

現場の保存のためあわただしく職員が動き回る。

さきほどまで大道芸人はとうに置き去りに。

そこに残る多くの人だかりが目にしているものは。

体が百貨店の壁にめり込んでいる腕が刃になっている男....ではなく、

その壁の上に赤いペンキで大きく書かれた「colors」の文字だった。


この後すぐにより多くの民衆はこれと同じ落書きを翌日のニュースで見ることなる。


場所はアギトの本部東京市の元首相官邸。

その前にある広場に描かれたcolorsの文字。


虹色の髪を持つ青年、後にエトと呼ばれる特権持ち。

そして赤となった少女。

この二人によって一夜でアギトは壊滅。4大グルーヴから外れることになる。

それによりcolorsは本来アギトの支配地である関東から東北の支配権を手に入れることになるはずだったが、全国放送にてエトがこれを放棄。全権をエイワズに委ねた。

規模、能力共に不明。

だがその力は勢力図を一夜で塗り替える。

こうして正体不明の最強の組織としてcolorsは日本の全ての人々に知れ渡った。








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