第21話:「精霊セリー」

 シェリアが自分の道を探すために旅立ってから数日、ガルドたちはエルフの村ララシルでの最後の夜を過ごしていた。ゼヴォルス――いや、精霊セリアンティスは本来の姿に戻り、今では小さな姿でガルドたちに同行しているが、ガルドは彼を「セリー」と呼んでいた。


「……セリアンティスなんて長い名前じゃ、呼びにくいだろう。これからはセリーでいいか?」


 ガルドは笑いながら、セリーを肩に乗せた。セリーは少し不満げに眉をしかめながらも、「仕方がないな」と小さく頷いた。


「まあ、そう呼ばれるのも悪くない。お前たちが私を救ったのだから、多少の呼び名には目をつぶってやろう」


「ありがとよ、セリー。これからも頼りにしてるぜ」


 ガルドが微笑むと、セリーは少し照れたようにふわふわと浮かびながら、彼の肩を軽くつついた。


 エリシアはそのやり取りを微笑ましく見つめながら、ガルドに近づいた。


「セリーもすっかり馴染んでるわね。精霊としては少し大人びた存在なのに、今ではまるで……」


「……まるで、マスコットみたいだな」


 ガルドが笑いを堪えながら言うと、セリーは「マスコットじゃない!」と少し怒った声で反論した。だが、その声もどこか愛嬌があって、ガルドたちはそれを微笑ましく感じていた。


 翌朝、ガルドたちはララシルの村を後にし、再び街へと戻る旅路に出発した。エルフたちが彼らを見送る中、エリシアの父シルヴィオは静かにガルドたちを見送りながら、ガルドに声をかけた。


「ガルド、エリシアを頼むぞ。そして、またいつでもここに戻ってきてくれ」


 ガルドは静かに頷き、「もちろんです、シルヴィオさん」と答えた。彼はエリシアの父親としての信頼を背負い、これからも彼女を守り続ける決意を新たにした。


 旅路は静かで穏やかなものだった。森を抜け、街へと向かう道中、ガルドたちはしばらくの間、ゆったりとした時間を楽しんでいた。エイリスは心の中で少し複雑な思いを抱えながらも、ガルドに話しかけるチャンスをうかがっていたが、彼の隣にはいつもエリシアが寄り添っていたため、そのタイミングを見つけられないでいた。


「エリシア、ガルド……二人はこれからも一緒に旅を続けるのね」


 エイリスは少し遠慮がちに尋ねた。エリシアは彼女に微笑みながら、「そうよ、私たちの冒険はまだまだ続くわ」と答えた。


「そうか……」


 エイリスは少し寂しそうに笑ったが、心の中で決心していた。ガルドへの気持ちを抱えつつも、彼とエリシアの絆を尊重する道を選ぶことを。彼女自身もまた、ガルドと共に戦う中で成長していきたいと願っていた。


 その時、セリーが軽くガルドの肩から浮かび上がり、前方を見つめた。


「……何か、感じるな」


 セリーの声には緊張感があり、ガルドたちも一瞬で身構えた。


「何だ? 敵か?」


 ガルドが剣に手をかけると、セリーは軽く首を振った。


「いや、危険なものではないが……何か精霊の力が……呼んでいる」


 その言葉に、エリシアはふと世界樹の力を思い出し、セリーの言葉に耳を傾けた。


「もしかして、世界樹に何か異変が?」


 エリシアが問いかけると、セリーはしばらく沈黙した後、静かに答えた。


「いや……世界樹の力は安定している。だが、森の深部で何かが変わり始めている。私もまだ完全には把握できないが、精霊たちが微かな違和感を感じているようだ」


 ガルドたちは再び緊張感を持ちながら、周囲を警戒した。街に戻る途中で何か予期せぬ事態が起こる可能性がある。ガルドは、次の一歩をどう進めるべきかを慎重に考えた。


「……街に戻る前に、もう少し森を調べる必要がありそうだな」


 ガルドの提案にエリシアもエイリスも頷き、彼らは再び森の奥へと足を向けた。セリーが感じた精霊の力の変化――それが何を意味するのかを確認するために、彼らは新たな冒険へと踏み出していった。


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