第19話:「秘めた想い」

 ララシルの村での盛大な宴が終わり、静かな夜が訪れた。森の風が揺れ、エルフたちが住む村全体が深い静寂に包まれている。そんな夜、エイリスは村の一角で一人、眠れずにいた。


「……どうして、こんな気持ちに……」


 エイリスは、胸の中に芽生えた感情に戸惑っていた。ゼヴォルスとの激しい戦いを終え、ガルドの強さと誠実さに触れたことで、彼への思いが次第に膨らんでいくのを感じていたのだ。


 戦いの最中、ガルドは決して諦めることなく、仲間を守り抜いてきた。その姿はエイリスにとって眩しいほどに頼もしかった。そして彼の優しさ――エリシアへの深い愛情を感じるたびに、エイリスは胸が締め付けられるような切なさを感じるようになった。


「ガルド……」


 その名前を口にするだけで、心が熱くなる。


 エイリスは思わず村の小さな湖のほとりに向かい、冷たい水に手を浸した。だが、心の中で渦巻く感情は、冷たい水でも冷やすことはできなかった。


「私は……どうしてこんな気持ちに……?」


 エイリスは自問自答しながら、自分の胸の中で湧き上がる感情を整理しようとした。だが、それは彼女にとって初めての体験であり、どう向き合っていいのか分からないままだった。


 ガルドはエリシアの隣にいるべき存在だということは、頭では理解している。二人の絆の強さは、戦いの中で何度も見せつけられてきた。だが、それでも――エイリスの心の中で芽生えた想いは止まることを知らなかった。


「どうしようもない……こんな気持ち……」


 エイリスは切なく呟きながら、心の中でガルドへの思いを静かに育てていた。彼の頼もしさと優しさ、その全てに惹かれてしまっていたのだ。


 エイリスは再びガルドのことを思い返した。彼が戦いの中で見せた強さ、そして仲間を思う気持ち。彼の背中は大きく、彼女にとって安心できる存在だった。


「……でも、私は……」


 エイリスは、そんな自分の気持ちを隠しながら、再び静かな夜の中に戻っていった。彼女の心の中で芽生えたこの感情は、誰にも打ち明けられない秘密であり、同時にこれからどう向き合っていくかを考えるべき課題だった。


 夜空には星々が輝き、村は静寂の中に包まれていた。エイリスはその中で、ひっそりと自分の想いを心の奥に閉じ込めながら、いつかこの気持ちに正面から向き合う時が来ることを予感していた。

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