第18話:「告白」

 ゼヴォルスとの戦いも終わり、ガルドたちはしばらくの間エルフの村で休息を取ることにした。エルフたちは戦いの勝利を祝うため、村の広場に集まり、盛大な酒盛りを開いた。エリシアの父、シルヴィオを中心に、エルフたちが次々と酒を注ぎ合い、にぎやかな宴が始まった。


「さあ、ガルド、今日は存分に飲んでくれ。お前たちが森を救ったんだからな!」


 シルヴィオが豪快に笑いながら、ガルドに大きな杯を渡した。エルフたちも笑顔でガルドたちを囲み、次々と酒が注がれる。ガルドは笑いながら受け取り、杯を口にした。


「いや、俺はただのCランク冒険者だ。そんなに大げさにすることはないさ」


 ガルドは謙虚に笑いながらも、皆が喜んでいることに心地よさを感じていた。エリシアも少し顔を赤らめながら、父親と共に酒を飲んでいた。


 宴が進む中、酒の勢いも手伝い、話題は次第にガルドとエリシアの関係に及んだ。


「そういえば、ガルド、お前とエリシアのことだが……いつか娘ができたら、俺にもちゃんと報告してくれるんだろうな?」


 シルヴィオが冗談交じりに言うと、ガルドは少し驚いた顔をして一瞬口ごもった。そして、エリシアはその様子に気付き、微妙に緊張した空気が漂い始めた。


「……実は、すでにその報告をしなければならないことがあるんだ」


 ガルドは一度深呼吸をし、覚悟を決めた。そして、静かに杯を置き、シルヴィオの目を見据えた。


「……エリシアと俺の間には、すでに娘がいる。彼女の名前はアイリーン。ずっと隠してきたが……そろそろ、このことを打ち明けるべき時が来たと思ってな」


 その言葉に、宴の席は一瞬で静まり返った。シルヴィオも驚いた表情を浮かべ、エリシアは少し頬を赤くしながら父親を見つめた。


「……なんと、それはめでたい! ガルド、お前に娘がいるとはな!」


 しばしの沈黙の後、シルヴィオは豪快に笑い出した。彼はガルドの肩を叩きながら、満面の笑みを浮かべた。


「今度はぜひその娘を連れてこい。会ってみたいぞ!」


 エリシアもホッとしたように微笑み、ガルドは肩の力を抜いて軽く笑った。


「ありがとう、シルヴィオさん。いつか必ず連れて来るよ」


 宴がさらに盛り上がり、やがてシルヴィオは酔いが回ってしまった。彼は豪快に飲み続けた結果、とうとうテーブルに突っ伏して寝入ってしまった。


「……お父様、無理して飲むから」


 エリシアは苦笑しながら、父親を見つめていた。ガルドは少し笑いながら、「まあ、今日は勝利の宴だからな」と肩をすくめた。


 その時、エリシアの母親であるフィリーネが、シルヴィオに代わってガルドの隣に座った。彼女は優雅な笑顔を浮かべながら、ガルドに杯を差し出した。


「シルヴィオが寝てしまったから、私が代わりに晩酌の相手をしてあげるわ」


 フィリーネは、エリシアと同じく美しいエルフであり、どこか妖艶な雰囲気を持っていた。ガルドは少し緊張しながらも、杯を受け取り静かに一口飲んだ。


 しばらく静かに酒を交わしていると、フィリーネがゆっくりとガルドに近づき、柔らかな声で囁いた。


「……ガルド、エリシアの父親として、シルヴィオは君を認めたようだけど……私にも一度だけでいいから、その誠実さを見せてくれないかしら?」


 フィリーネの声には、どこか誘惑的な響きがあった。彼女の目は、どこか熱を帯びており、その手はガルドの腕にそっと触れた。


「……フィリーネさん?」


 ガルドは驚き、思わず杯を置いた。彼の心には、少しだけ困惑が走ったが、すぐに冷静さを取り戻した。


「静かな夜……二人きりで過ごしてみない? たった一夜のあやまちでも……どう?」


 フィリーネはさらに身を寄せ、ガルドの耳元で囁いた。その誘惑に、普通の男ならば心を揺さぶられるだろう。しかし、ガルドは迷うことなく彼女の手を優しく払い、きっぱりと断った。


「申し訳ないが、フィリーネさん。俺はエリシア一筋です」


 ガルドの言葉は誠実で、少しの迷いもなかった。彼はエリシアへの愛を決して揺るがすことはなく、どんな誘惑にも負けるつもりはなかった。


 その瞬間、陰から声が飛んできた。


「……もうお母様、やめてください!」


 エリシアが顔を真っ赤にして、フィリーネとガルドのやり取りを目撃していた。彼女は呆れたような顔でフィリーネに歩み寄り、軽くツッコミを入れた。


「お母様、本当に……ガルドはそんな簡単に誘惑に乗る人じゃないって、わかってるでしょ?」


 フィリーネは微笑みながら肩をすくめ、「ちょっとした冗談よ、エリシア。でも、ガルドが誠実なのはよく分かったわ」と言って立ち上がった。


「本当にもう……」


 エリシアは恥ずかしそうにため息をつき、ガルドの隣に座り直した。


「……お母様、あんなことしないでください。びっくりするじゃないですか」


 ガルドは少し笑いながら、エリシアに「大丈夫だよ」と声をかけた。


 こうして、シルヴィオやフィリーネとの酒盛りの夜が終わり、ガルドとエリシアの絆がさらに深まることとなった。フィリーネの誘惑にも負けず、ガルドの誠実さは証明され、二人は静かな夜を共に過ごすことができた。


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