第16話:「万年Cランクの冒険者ガルド」

 ガルドは、暗闇の中で一人立ち尽くしていた。彼の周囲は闇に包まれ、何も見えない。ただ、不安と孤独が胸を締め付けていた。


「俺は……ここで終わりなのか……?」


 ガルドは呟きながら、剣を握る手に力が入らなくなっていくのを感じた。ゼヴォルスとの戦いの中で、自分が何を求め、何を守ろうとしていたのかが見えなくなっていた。


「英雄……Sランク……俺がそんなものを望んでいたのか?」


 ガルドの前には、再びかつての幻が広がっていた。Sランクの冒険者として称えられ、王国中の英雄として崇められる自分の姿が映し出されている。多くの人々が彼に向かって歓声を上げ、感謝の言葉を口にしていた。


「ガルド様、王国を救ってくださってありがとうございます!」


「あなたこそ、我らの守護者です!」


 その言葉は、一見すると誇らしく、嬉しいものであるはずだった。しかし、ガルドの胸には強い違和感が残っていた。


「これは……違う」


 彼は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。


「俺が望んでいたのは……こんなものじゃない」


「ガルド様、どうか我々をお導きください!」


 再び人々の声が響く。だが、その声は次第に歪み、まるで耳障りなノイズのように聞こえてきた。ガルドの心の奥底で、何かが反発し始めた。


「俺は……こんな英雄なんかじゃない。俺は……」


 その瞬間、彼の中に光が差し込んだ。ガルドは目を開き、自分が何者であるかを思い出し始めた。


「俺は万年Cランクの冒険者――ガルドだ……!」


 その言葉が彼の口から自然と漏れた。栄光や称賛は、ガルドにとっての目的ではない。彼が大切にしてきたのは、ただ地道に街を守り、人々のために小さな依頼をこなすことだった。


「俺が守りたいのは、名声や地位じゃない……仲間や街の人々だ!」


 ガルドは剣を握りしめ、幻の中にいる自分に強く言い聞かせた。そして、周囲の景色が一瞬で崩れ始めた。王国中の人々の歓声も、英雄としての称号も、すべてが霧のように消え去っていく。


 ガルドは再び現実の世界へと戻ってきた。目の前には、仲間たち――エリシア、シェリア、エイリスの姿があった。彼らもまた、それぞれの幻覚を打ち破り、ゼヴォルスの罠から抜け出していた。


「ガルド!」


 エリシアが駆け寄り、彼の腕を強く握った。


「あなたも目覚めたのね!」


 ガルドは頷き、剣を構えた。


「ああ、これで終わりにする……ゼヴォルスを倒して、全てを終わらせるんだ」


 その時、周囲の空気が再び重くなった。ゼヴォルスの気配が濃厚に漂い、彼の声が暗闇の中から響いてきた。


「……よくもここまでたどり着いたな……だが、終わりではない。私の力は無限だ。お前たちは決して勝つことができない……!」


 ゼヴォルスの姿が再び目の前に現れ、彼の全身から黒い霧が立ち上がった。邪悪な気配が森中に広がり、まるでその場所全体を飲み込もうとしていた。


「さあ、再び絶望を味わうがいい……」


 ゼヴォルスは手を掲げ、闇の波動をガルドたちに向けて放った。だが、ガルドは一歩も退くことなく、その闇を見据えた。


「俺たちは……負けない!」


 ガルドが叫び、剣を高く掲げた。その瞬間、剣が光り輝き、彼の体を包み込むような力が広がった。


「これは……精霊の力か?」


 ガルドは驚きながらも、その力が自分を助けていることを感じ取った。剣が精霊の力を得て、進化したのだ。彼は仲間たちに目を向けた。シェリアは弓を構え、エリシアは精霊たちの力を呼び、エイリスは神聖な光を纏っていた。


「これで終わりだ、ゼヴォルス!」


 ガルドは力強く叫び、精霊の力を宿した剣でゼヴォルスに突撃した。シェリアの放つ矢が闇を切り裂き、エリシアの魔法がゼヴォルスを取り囲む。エイリスは神聖術で仲間を守り、力を与えた。


 ゼヴォルスは必死に闇の力で抵抗しようとするが、その力は次第に薄れ始めていた。ガルドの剣が輝き、ゼヴォルスの胸に突き刺さった。


「……これが……お前たちの力か……」


 ゼヴォルスは苦しげに声を漏らし、やがてその姿が崩れ去っていった。闇が消え、森は再び静寂を取り戻した。


「……終わったのか?」


 ガルドは剣を収め、深く息を吐いた。ゼヴォルスの邪悪な気配は完全に消え去り、周囲には静けさだけが残っていた。


「やったわ……ガルド、私たち勝ったのよ!」


 エリシアが喜びの声を上げ、ガルドに飛びついた。シェリアとエイリスも笑顔を浮かべ、互いに安堵の表情を見せた。


「これで、本当に終わったな……」


 ガルドは小さく笑いながら、仲間たちと共に勝利を噛みしめた。彼は万年Cランクの冒険者として、最後まで仲間と共に戦い抜いたのだ。

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