第14話:「女神の加護」

 エイリスは、光に包まれた穏やかな庭園に立っていた。美しい花々が咲き乱れ、小鳥たちが楽しげにさえずっている。エイリスの目には、この風景がまるで絵本の世界のように映っていた。


「……ここは?」


 エイリスは不思議そうに辺りを見回した。すると、彼女の目の前に、小さなテーブルと椅子があり、その上には温かい紅茶とお菓子が用意されていた。まるで、彼女を歓迎するかのように。


「どうして……こんな場所に……」


 エイリスは戸惑いながらも、どこか懐かしさを感じていた。彼女の心の奥底にある、平和で普通の女の子としての生活――それがこの場所に重なっているようだった。


 エイリスはふと、誰かの足音が近づいてくるのを感じた。振り向くと、そこには優しそうな女性が立っていた。彼女は柔らかい微笑みを浮かべ、エイリスに手を差し伸べている。


「エイリス、こちらへ来て。あなたはもう戦わなくていいのよ」


 女性の声はまるで、母親のように優しかった。エイリスの心の奥底にある不安や疲れをすべて癒してくれるような、その言葉に、エイリスは思わず頷きそうになった。


「もう……戦わなくてもいい……」


 エイリスはその言葉を反芻した。彼女は神聖術師として、多くの戦いに巻き込まれ、傷ついてきた。だが、心のどこかで平穏な日々を求めていたのは確かだった。


「……私は、普通の女の子になりたい……」


 エイリスの心に、その願いが深く刻まれた。


「普通の生活……それが、私の本当の望みなのかもしれない……」


 エイリスはその言葉を口にしながら、女性の手を取りそうになった。だが、その瞬間、胸の奥に小さな違和感が生まれた。


「でも……私は、本当にこれでいいの……?」


 ふと、ガルドやエリシア、そしてシェリアのことが頭をよぎった。彼女たちと共に過ごした日々、共に戦った絆が彼女の心を揺さぶった。


「私は……彼らと一緒にいることが……幸せなんじゃないか……?」


 その時、エイリスの耳に微かな声が聞こえた。それは、彼女の中に宿る神聖な力――女神の囁きだった。


「エイリス……あなたは自分の役割を忘れてはいけない」


 その声は、柔らかくも力強い。エイリスはその声に反応し、周囲を見回した。美しい庭園は変わらずそこにあったが、その光景が次第に色褪せていく。


「これは……幻……?」


 エイリスは目を見開き、足を止めた。目の前の女性は優しく微笑んでいたが、その姿も徐々に歪み始めている。


「……違う。私は……」


 エイリスは自分の心の奥にある、本当の願いに気付き始めた。彼女が求めていたのは、平穏な生活だけではない。ガルドたちと共に過ごし、彼らを守ること――それが彼女の使命であり、役割なのだ。


「私は……皆と一緒に戦う。私には、まだやるべきことがある!」


 エイリスの目に強い決意が宿った。その瞬間、彼女の体に光が差し込み、女神の力が彼女を包み込んだ。


「ありがとう、女神様……私を導いてくれて……」


 エイリスは胸の中に温かい力を感じながら、幻を振り払った。彼女の体は再び現実の世界へと引き戻され、女神の加護によって覚醒した。


「……戻った……」

 

 エイリスは静かに呟きながら、周囲を見渡した。ガルドや他の仲間たちはまだ幻の中に囚われているが、彼女はその力を取り戻し、再び戦う決意を固めた。


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