第14話:「精霊の導き」

 シェリアは、心地よい風の中で目を覚ました。目の前には、かつての仲間たちが笑顔で座っており、焚火の炎がゆらゆらと揺れている。


「シェリア、久しぶりだな」


 懐かしい声が響いた。シェリアが振り向くと、そこにはかつてゼヴォルスの手で命を奪われた仲間たち――ラルフ、メイ、カインの姿があった。彼らは穏やかな笑顔を浮かべ、シェリアを歓迎している。


「みんな……こんなに元気そうで……」


 シェリアは驚き、涙がこぼれそうになった。彼らは戦いの中で失ったはずの仲間たち。長年、そのことを悔やみ続けてきた彼女にとって、この瞬間は夢のようだった。


「もう、戦わなくてもいいんだよ、シェリア」


 ラルフが優しく微笑み、シェリアの肩に手を置いた。


「ここで私たちと、また一緒に過ごそう」


「そうよ、これからはずっと一緒よ」


 メイが嬉しそうに言葉を添える。彼女たちと過ごした日々がよみがえり、シェリアは自分が今いる場所があまりに居心地良いものだと感じ始めた。


「もう戦わなくてもいい……」


 シェリアは目を閉じ、彼らとの穏やかな日々に心を寄せていく。しかし、次第に胸の中で何かがざわつき始めた。


「……でも、本当にこれでいいの?」


 その瞬間、シェリアの耳に微かな声が聞こえた。風に乗って届いたその声は、精霊たちの囁きだった。


「シェリア……目を覚まして……」


「……え? 誰?」


 シェリアはその声に反応し、周囲を見回した。だが、仲間たちは何も変わらず、微笑んでいる。


「ここで過ごしていれば、もう痛みや苦しみはないわ、シェリア」


 メイが優しく語りかける。だが、その言葉が胸に響くたびに、シェリアは次第に違和感を感じ始めた。


「……これが、本当に私が望んだものなの……?」


 シェリアは立ち上がり、風に耳を澄ませた。精霊たちの声が再び聞こえる。


「あなたはまだ終わっていない……ゼヴォルスとの決着をつけるために……目を覚ますのです……」


 その瞬間、シェリアの胸に鋭い痛みが走った。かつての仲間との再会が幻であることに、彼女は気付き始めたのだ。


「これは……ゼヴォルスが見せた幻……」


 シェリアは大きく息を吸い込み、冷静に立ち上がった。目の前の仲間たちの笑顔が、次第に薄れていくのが分かる。


「私がここで過ごすことはできない……まだ、やるべきことがある!」


 シェリアの声に応じるように、周囲の景色が揺らぎ始めた。焚火の炎は消え、仲間たちの姿が霧のように消えていく。


「さようなら、みんな……今度は、私がみんなを救う番だ」


 シェリアは涙をこらえながら、目の前の幻を振り払うように前に進んだ。精霊たちの囁きが再び耳に響く。


「私たちが、あなたを導きます……そしてどうか、彼を――」


 その声に応えるように、シェリアは弓を強く握りしめ、まっすぐ前を見据えた。彼女はゼヴォルスの罠を打ち破り、現実へと戻る決意を固めた。


 その瞬間、シェリアの目の前に光が広がり、彼女は再び森の中へと戻った。ガルドや他の仲間たちはまだ動かずにいたが、彼女は自分が幻を乗り越えたことを実感していた。


「……私は、目覚めた」


 彼女は静かに呟き、次に進む準備を整えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る