第13話:「囚われたガルド」
ゼヴォルスが消えた瞬間、ガルドたちはその場に一瞬の安堵を感じた。森に漂っていた邪悪な気配がようやく消え去り、静寂が戻ったかのように思えた。しかし、ガルドの胸にはまだ不穏な感覚が残っていた。ゼヴォルスの最後の言葉が頭に引っかかる。
「……何かがおかしい」
ガルドは静かに呟き、剣を握る手に力を込めた。彼の直感は鋭く、戦いの中で培われた経験が警戒心を高めていた。ゼヴォルスは確かに消えたはずだった。だが、何かが違う。
「ガルド、どうしたの? 終わったんじゃないの?」
エリシアが心配そうに問いかけるが、ガルドは返答する前に、その場で膝をつき、急に視界がぼやけていくのを感じた。
「これは……」
ガルドは次第に視界が暗くなり、目の前の世界が歪んでいくのを見た。世界がぐるぐると回り始め、彼の意識はゆっくりと深い闇の中へと引きずり込まれていった。
ガルドの目の前に広がったのは、明るく輝く都市の風景だった。人々が歓声を上げ、彼の名を呼んでいる。
「ガルド様! 英雄ガルド様! よくぞ我々をお救いくださいました!」
群衆が彼を称え、拍手を送っている。目の前には大きな彫像が立っており、そこには彼自身の姿が彫り込まれていた。彫像の下には、「Sランク冒険者ガルド、王国の守護者」と記されている。
「……Sランク? 俺が……?」
ガルドは呆然とその彫像を見上げた。彼はCランクの冒険者として、地道に街を守り続けてきたはずだ。それが今、王国の英雄として讃えられている。
「これは……違う。俺がこんな……」
ガルドは心の中に広がる違和感を振り払おうとしたが、その時、さらに多くの人々が彼を取り囲んだ。王国の貴族や冒険者ギルドの代表が次々と彼に挨拶し、称賛の言葉を浴びせる。
「ガルド様、貴方こそ伝説の冒険者です! 我々の世界をお救いください!」
「英雄よ、これからも我々の王国を守ってください!」
その言葉の一つ一つが、ガルドの心に重くのしかかった。Sランク、英雄、伝説の冒険者――それは、彼の望んだものではないはずだ。だが、周囲の歓声はますます高まり、彼の思考を押し流していく。
「……これは……幻だ。こんなもの……俺が望むはずがない」
ガルドは目の前の栄光を拒絶しようとするが、周囲の声は止むことなく、さらに強く彼を追い込んでいく。彼は自分がCランクであり、地道に働く冒険者であることに誇りを持っている。だが、この世界はそれを覆い隠そうとしていた。
そして、その瞬間、ガルドの意識は再び揺れ、闇が彼を包み込んだ。彼は深い無意識の中へと引き込まれていった。
ガルドが目を覚ました時、彼は暗い洞窟の中に一人で横たわっていた。周囲には誰の姿も見えない。ゼヴォルスとの戦いは、まるで夢だったかのように思える。
「ここは……どこだ?」
彼は立ち上がり、剣を手にした。だが、そこには微かな違和感があった。剣が重く、鈍い。そして、自分の体にも力が入らない。彼はまるで別の世界にいるような感覚に囚われていた。
「これは……幻か?」
ガルドは手を握りしめ、次第に周囲の風景が歪んでいくのを感じた。
その頃、ガルド以外の仲間たちも同じように幻覚の中に囚われていた。ゼヴォルスの最後の策略が発動し、彼ら全員にそれぞれの心の弱点を突く幻が見せられていたのだ。
エリシアは、ガルドがセリアと楽しそうに過ごしている姿を見せられ、嫉妬心に苛まれていた。
シェリアは、かつて滅ぼされた仲間たちと平和な日々を過ごしている幻を見せられ、そこから抜け出せずにいた。
エイリスは、普通の女の子として平穏な日々を過ごしている自分の姿を見せられ、戦いから解放されている生活に心が揺れていた。
彼らはそれぞれの幻覚に囚われ、目覚めることができずにいた。ゼヴォルスは彼らに最後の試練を与え、それを乗り越えることができなければ、本当の意味で彼を打ち破ることはできない。
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