第11話:「ゼヴォルスとの対峙」

 ガルドたちは、巨大な闇の扉の前に立っていた。冷たい風が吹き抜け、扉を通して伝わってくる邪悪な気配が、周囲の空気を一層重くしていた。ゼヴォルスの力はすぐそこにある。彼らの前に立ちはだかる最後の障害が、この扉の向こうで待ち構えている。


「……ここからが本番だな」


 ガルドは剣を握りしめ、扉を見据えた。これまでの戦い以上に、緊張が全身を包んでいるのを感じていた。だが、その心には迷いはなかった。


「ゼヴォルスは私たちを待っているわ。この扉の先に……」


 シェリアは弓をしっかりと握り、苦しそうな表情で扉を見つめた。彼女にとって、ゼヴォルスとの対決は、過去に背負った多くの犠牲者たちへの弔いでもある。


「奴を倒して……全てを終わらせるんだ」


 エリシアも強い決意を胸に、精霊たちの力を呼び起こし始めた。彼女にとっても、この戦いは避けられない運命だった。


 ガルドが扉に手をかけ、ゆっくりと開け放つと、闇の空間が広がり、その中央にゼヴォルスが静かに立っていた。彼の漆黒のマントが風に揺れ、冷たく光る赤い瞳がガルドたちをじっと見つめていた。


「来たか……やはり貴様らはここまで辿り着いたか。だが、この先はない。貴様らの命は、ここで終わりだ」


 ゼヴォルスは冷笑を浮かべながら、手をゆっくりと掲げた。その動きに呼応するように、空気が重くなり、黒い霧が周囲を包み込んだ。


「貴様の思い通りにはさせない……!」


 ガルドは叫び、剣を抜いて前に出た。彼の体は緊張で硬直していたが、その目には決意が宿っていた。


「ゼヴォルス……私はお前を討つ。これ以上、お前の好きにはさせない!」


 シェリアは弓を構え、ゼヴォルスに向かって鋭い視線を向けた。彼女にとって、この瞬間は長年待ち続けたものだった。


「シェリア・アルヴェイン……ふん、お前がまだ生きているとはな」


 ゼヴォルスは冷笑を浮かべながら、シェリアを見つめた。


「かつての敗北がまだ心に残っているのか? お前はまた負けるだろう。今度こそ、全てを奪ってやる」


 シェリアはその言葉に表情を歪めたが、すぐにその感情を押し殺し、冷静さを保った。


「お前の言葉はもう通用しない……今度は私たちが勝つ!」


 戦いが始まった。


 ゼヴォルスは手を掲げ、強大な闇の魔法を放った。闇の波動がガルドたちに襲いかかり、周囲の空間が揺らぎ始めた。空気が重く圧し掛かり、彼らの体が動かしづらくなるほどの力だった。


「くっ……! 何て力だ!」


 ガルドはすぐに剣を構え、魔法の波動を防御したが、その威力は計り知れなかった。


「エリシア、援護を!」


 ガルドが叫ぶと、エリシアはすぐに風の精霊の力を呼び出し、魔法の防御を張った。彼女の魔法がガルドたちを包み込み、闇の波動を抑え込む。


「これで少しは持ちこたえられるはず……!」


 エリシアは汗をかきながら、魔法を維持し続けた。ゼヴォルスの力は強大だったが、彼らも簡単に屈するつもりはなかった。


 シェリアは弓を引き、ゼヴォルスの隙を狙って矢を放った。その矢は、彼の闇の霧を突き抜け、彼の体に命中した。だが、ゼヴォルスはわずかに身を揺らしただけで、その矢をまるで無視するかのように体を再生した。


「無駄だ……私の力は、そう簡単に削げるものではない」


 ゼヴォルスは冷笑を浮かべ、再び闇の力を解き放った。空気がさらに重くなり、ガルドたちの体が押し潰されそうになった。


「エイリス、今だ! 神聖術を!」


 ガルドが指示すると、エイリスはすぐに神聖術を発動し、光の力を解放した。その光がゼヴォルスの闇を打ち破り、一瞬だけ空間が浄化された。


「ふむ……少しはやるようだな」


 ゼヴォルスはその光にわずかに驚いたが、それでもなお優位に立っていることに変わりはなかった。


「だが、お前たちの力ではまだ足りない。私を倒すには、絶望的に足りない」


 ゼヴォルスは手を掲げ、さらに強力な闇の魔法を放った。黒い触手のような力がガルドたちに襲いかかり、空間が再び歪み始めた。


「ここまでか……!」


 ガルドは剣でその触手を切り裂きながら必死に抵抗したが、その力は凄まじく、彼の体力も徐々に限界に近づいていた。


「……負けない……絶対に負けない!」


 シェリアは叫び、再び弓を引いた。彼女の目には涙が浮かんでいたが、その手は決して震えていなかった。彼女はかつての仲間たちのために、ゼヴォルスを討たなければならないという強い使命感を抱いていた。


 その瞬間、彼女の体から微かに光が放たれた。精霊たちが彼女に力を貸しているのだ。彼女の矢は精霊の力を帯び、ゼヴォルスに向かって放たれた。


「これで終わりだ……!」


 彼女の矢はまっすぐゼヴォルスに命中し、その体を貫いた。ゼヴォルスの体は一瞬揺らぎ、その瞳が一瞬だけ驚きに染まった。


「……愚かな……」


 ゼヴォルスはそう呟くと、その体はゆっくりと崩れ始め、やがて黒い霧と共に消え去った。


「……やったの……?」


 エリシアが呆然とした声で呟くと、ガルドも剣をゆっくりと下ろし、深く息を吐いた。


「……ああ、終わった。ゼヴォルスは……消えた」


 ガルドはゼヴォルスが消えた場所を見つめながら、しばらく言葉を失っていた。あまりに強大な敵だったが、彼らはついにその脅威を乗り越えたのだ。


 シェリアは震える手で弓を握りしめ、静かに涙を流していた。


「……これで、仲間たちも……」


 彼女はそう呟きながら、目を閉じた。

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