第10話:「崩れゆく聖地」

 シェリアを加え、ガルドたちはエルフの古代の地ヴァルセリアの森の奥深くへと進んでいった。この森は、エルフ族にとって神聖な場所であり、古代から精霊たちと深く結びついている。しかし、その森の空気は今や腐敗し、ゼヴォルスの邪悪な力が徐々に広がっていた。


「……精霊たちが苦しんでいる」


 エリシアは眉をひそめ、精霊たちとの微かな繋がりを感じ取りながら、静かに言った。


「ゼヴォルスの力が、この森全体を支配しつつあるのね……」


「奴を止めるには、ここで一気に進んで、ゼヴォルスの本拠地を突き止めるしかない」ガルドは冷静に言いながら、剣を握りしめた。


「ええ……ここで終わりにしなければならないわ」


 シェリアも強い決意を込めた表情で頷いた。彼女の心には、ゼヴォルスとの因縁を断ち切る覚悟があった。


 しばらく進むと、森の奥から不気味な音が響き始めた。低く、重い地鳴りのような音が次第に大きくなり、その音は次第に周囲の木々を揺らし始めた。


「気をつけろ……何か来る」


 ガルドは剣を抜き、周囲を警戒した。すると、森の奥から巨大な影がゆっくりと姿を現した。黒い霧をまとった、邪悪な存在だった。それは、人間の形をしているが、その体は不自然に歪み、目は真っ赤に光り、まるでこの世のものではないような雰囲気を纏っていた。


「ゼヴォルスの手下か……!」


 シェリアはその姿を見て、すぐに弓を構えた。


「こいつらが、ゼヴォルスの力を受けているのね」


「俺たちが奴の本拠地に近づいている証拠だ。ここを突破しないと、先へは進めない」


 ガルドは剣を構え、敵に向かって足を進めた。彼の体には緊張が走ったが、その心は決して揺るがなかった。


 敵は巨大な体でありながら、素早い動きでガルドたちに襲いかかってきた。その速度に驚いたガルドは、すぐに防御の態勢を取ったが、敵の強烈な一撃を受けて後退させられた。


「くっ……!」


 ガルドはすぐに体勢を立て直し、再び剣を構えた。


「速いが……まだ対処できる!」


「私も援護するわ!」


 シェリアは素早く弓を引き、的確なタイミングで矢を放った。彼女の矢は、黒い霧に包まれた敵の体に命中し、少しの隙を作った。


「今だ!」


 ガルドはその隙を見逃さず、剣を振り下ろした。その一撃は、敵の体を貫き、黒い霧が消え去った。


「倒した……!」


 エリシアはほっとした表情で呟いたが、すぐに次の敵が迫っていることを感じ取った。


「まだ終わっていないわ……次の敵が来る!」


 次々と現れるゼヴォルスの手下たちは、強大な力を持ちながらも、ガルドたちの連携によって徐々に押し返されていった。シェリアの弓とエリシアの魔法、エイリスの神聖術がそれぞれの役割を果たし、ガルドが前線で敵を打ち倒していく。


「こいつら……数が多すぎる!」


 エリシアが汗を拭いながら言うと、シェリアも険しい表情で応えた。


「これはゼヴォルスが私たちを止めようとしている証拠よ。何としても突破しなければならないわ」


 ガルドは無言で頷き、剣を再び構えた。


「先に進む。ここで立ち止まるわけにはいかない」


 彼らは決意を新たにし、次々と襲いかかる敵を倒しながら、ゼヴォルスの本拠地へと向かって進んでいった。


 しばらくして、ついに森の奥にある巨大な岩壁が姿を現した。その中央には、闇の力に包まれた巨大な扉があり、その向こうにはゼヴォルスが待ち構えていることが感じ取れた。


「ここだ……奴がいる」


 ガルドは扉を見据え、剣を構え直した。彼の心には緊張が走っていたが、決して後退することはなかった。


「ここを抜ければ、ゼヴォルスと直接対峙することになるわ。皆、準備はいい?」


 シェリアは弓を握りしめながら、ガルドたちに確認した。彼女の目には決意と覚悟が宿っていた。


「もちろんだ。俺たちで奴を終わらせる」


 ガルドは静かに頷き、扉に向かってゆっくりと歩みを進めた。その向こうには、ゼヴォルスとの最後の戦いが待っている――そして、それはこれまで以上に苛烈なものになるだろう。


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