第9話:「シェリアとの出会い」
ガルドたちはリューンカリエンの森を離れ、さらにエルフの古代の地へと足を運んでいた。ゼヴォルスの影が森に潜んでいることを確信した彼らは、エルフの力を持つ古代の土地で、さらなる手がかりを得るために進んでいた。
「この場所は……すごいわ」
エリシアは感嘆の声を上げながら、目の前に広がる荘厳な森を見つめていた。リューンカリエンの森よりもさらに古い、エルフ族の聖地であるその場所は、木々の一つ一つが何百年も生き続けたもので、そのすべてが精霊の力を宿しているように感じられた。
「ここがエルフ族の聖地、ヴァルセリアの森だ」
エイリスもその美しさに目を奪われながら、ガルドたちと共に進んでいく。しかし、その静けさの中に不穏な空気が漂っていることにも、彼女たちは気付いていた。
「何かがおかしい……精霊たちの声がここでも弱まっている」エリシアは周囲を見渡し、眉をひそめた。
「奴の影がこの森にも及んでいる可能性が高いな」ガルドは冷静に言い、剣の柄に手をかけた。
森の中をさらに進んでいくと、突然、目の前の茂みが揺れ、何者かの気配が現れた。ガルドはすぐに剣を抜き、エリシアとエイリスを守るように立ち塞がった。
「誰だ!」
ガルドの警戒の声に応じて、茂みの中から現れたのは、弓を構えたエルフの女性だった。彼女の長い金髪が風に揺れ、その鋭い瞳はガルドたちを見据えていた。彼女の姿は戦士のそれであり、優雅さの中に確かな力を感じさせた。
「……貴方たち、人間? こんな森の奥に何の用?」
その女性――シェリア・アルヴェインは、弓を下ろさず、警戒を解くことなく問いかけてきた。彼女の目には、かつてゼヴォルスと戦った者としての覚悟が感じられた。
「俺たちはこの森の調査に来た。邪蟲の巣を破壊し、森を救うために動いている。お前は……?」
ガルドは剣を構えたまま、慎重に言葉を返した。
「シェリア・アルヴェイン。私はこの森を守るためにここにいる。……だが、最近、この森に再びゼヴォルスの影を感じている。あの男を倒すために、私も動いている」
「ゼヴォルス……!」
ガルドとエリシアはその名を聞いて驚き、互いに視線を交わした。ゼヴォルスの脅威がリューンカリエンの森だけでなく、エルフ族の古代の地にも及んでいることが明らかになったのだ。
「ゼヴォルスを知っているのか?」
ガルドが尋ねると、シェリアは目を伏せ、静かに頷いた。
「ええ……あの男は私の故郷を襲い、多くの仲間を奪った。私はゼヴォルスと対峙したことがある……だが、彼はあまりに強かった。私は仲間を守ることができなかった」
シェリアの声には苦しみが滲んでいた。彼女の心には、過去にゼヴォルスと戦った際に負った深い傷が残っていたのだ。
「……そうか。お前も奴と因縁があるんだな」
ガルドは剣を収め、シェリアに向かって静かに頷いた。「俺たちも、リューンカリエンの森でゼヴォルスの影を感じた。奴はここでも何かを企んでいるはずだ」
「分かっているわ。だから私は、ゼヴォルスを討つために再び立ち上がったの。今度こそ……必ず倒す」
シェリアは決意を込めて言ったが、その目にはまだわずかに不安が残っていた。
「一人で動くのは危険だ。俺たちと協力しよう。ゼヴォルスを倒すためには、力を合わせるしかない」
ガルドが提案すると、シェリアは一瞬迷ったように見えたが、やがて静かに頷いた。
「……分かった。貴方たちとなら、きっと……」
彼女はそう言うと、弓を下ろし、ガルドたちと共に歩みを進めた。彼女の目には、再びゼヴォルスに立ち向かう覚悟が宿っていた。
「ありがとう、シェリア。これで私たちも心強いわ」
エリシアは微笑み、シェリアに感謝の気持ちを伝えた。エリシアもまた、シェリアが抱えている苦しみを感じ取りながら、彼女を支える決意を固めた。
しばらく進むと、森の奥から不穏な気配が漂い始めた。黒い霧が立ち込め、何か強大な存在が潜んでいることが感じられた。
「……またゼヴォルスの力か」
ガルドは剣を抜き、警戒を強めた。
「ここから先が、奴の力が及んでいる場所よ。私たちの古代の地が、またしてもゼヴォルスに蝕まれている……」
シェリアは悔しそうに呟きながら、弓を構えた。「もう、奴には好き勝手させない」
「そうだ。俺たちで終わらせよう」
ガルドは力強く頷き、シェリア、エリシア、エイリスと共に、森の奥へと足を進めた。彼らの前には、再びゼヴォルスとの戦いが待っている――そしてその戦いは、かつて以上に激しいものとなるだろう。
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