第6話:「世界樹アルヴァリエンの声」
森の奥へと進んだガルドたちは、ついに世界樹アルヴァリエンの姿が遠くに見えてきた。巨大な樹木は、周囲の腐敗が進む中でもその神聖さを保っており、静かに佇んでいた。しかし、アルヴァリエンから放たれる力は以前ほどの力強さを感じさせず、弱まっているのは一目瞭然だった。
「アルヴァリエンが……あんなにも弱っているなんて」
エリシアは悲しそうに呟いた。彼女にとって世界樹はただの木ではなく、精霊たちと彼女自身を繋ぐ存在であり、森の命そのものだった。それが今、かつての輝きを失い、苦しんでいるのを目の当たりにして、彼女は胸に重い痛みを感じていた。
「まだ大丈夫だ。俺たちがここにいる限り、どうにかなる」
ガルドは決して動揺することなく、エリシアに向かって力強く言い放った。彼の冷静さと自信が、エリシアにとって心強い支えとなっていた。
「そうね……あなたの言う通り。私たちで世界樹を守り抜くわ」
エリシアは深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
世界樹の根元にたどり着いたガルドたちは、アルヴァリエンの力を感じ取りながら慎重にその周囲を見渡した。腐敗の気配はすでにこの神聖な場所にも及んでいたが、世界樹自体はまだ完全には侵されていない。だが、根元の周りには黒い汚れのようなものが広がっており、それが世界樹の力を奪っているかのようだった。
「これは……邪蟲の影響だわ。世界樹が……ゆっくりとその力を奪われている」
エリシアはその場に膝をつき、手を地面に置いて精霊たちに語りかけた。彼女は世界樹との交信を試み、精霊たちの声を聞こうと集中する。
「……アルヴァリエン、私に応えて……」
エリシアの声は静かで、森全体に響き渡るように感じられた。しかし、その瞬間、地面が大きく震え、世界樹の根元から何かが動き出した。
「……何だ?」
ガルドは剣をすぐに抜き、警戒した。
すると、根元に広がっていた黒い汚れが渦を巻き、まるで生き物のように動き出した。そこから現れたのは、巨大な邪蟲の本体だった。体は黒くねじれ、無数の触手のようなものが地面から伸びている。
「これは……邪蟲の化身!」
エリシアは驚愕の表情で叫んだ。
「エリシア、交信は後だ。まずはこいつを倒す!」
ガルドはすぐに前へ進み、剣を構えた。巨大な邪蟲は、アルヴァリエンの力を吸い取っているようで、動きが鈍い。しかし、それでも強大な力を持っていることは間違いなかった。
ガルドが一撃を加えると、邪蟲は苦しそうに体をくねらせ、反撃に出た。無数の触手がガルドに襲いかかるが、彼は冷静にそれをかわし、次の攻撃に転じた。
「くそ……こいつは手強い!」
ガルドは再び剣を振るい、邪蟲の体に斬りつけるが、その傷口からはすぐに黒い液体が溢れ出し、再生しようとしていた。
「エイリス、支援を頼む!」
「はい!」
エイリスはすぐに神聖術を発動し、光のバリアをガルドの周りに張った。
「これで、少しは抑えられるはずです!」
ガルドは頷き、再び邪蟲に向かって突進した。エイリスの神聖術が邪蟲の力を一時的に抑え込み、ガルドはその隙を突いて攻撃を仕掛ける。
エリシアも後方から風の魔法を放ち、ガルドを援護した。彼女の魔法は邪蟲の触手を巻き込み、その動きを鈍らせる。
「ガルド、今よ!」
エリシアの声に応じて、ガルドは剣を振り下ろし、邪蟲の本体に深く突き刺した。その瞬間、邪蟲は大きく体を震わせ、黒い液体を吹き出しながら地面に崩れ落ちた。
「……やったか?」
ガルドは剣を鞘に戻し、警戒を解いた。しかし、その時、世界樹から微かな声が聞こえた。
「……救って……」
エリシアはその声に気付き、すぐに地面に手を置いた。
「アルヴァリエンの声が聞こえる……でも、まだ力が足りない」
「交信できるのか?」
ガルドが尋ねる。
「ええ、でも……邪蟲の力がまだ残っている。完全には世界樹と繋がることができないわ……」
エリシアは眉をひそめ、心の中で精霊たちに強く呼びかけた。世界樹はまだ完全には倒れていないが、その力を取り戻すためには、邪蟲の根を完全に断ち切る必要がある。
「ここで終わらせなければ、森全体が……」
エリシアは自分の無力さを感じながらも、精霊たちの力を信じて立ち上がった。
ガルドたちは、再び周囲を警戒しながら、世界樹の根元を調べ始めた。そこで彼らは、邪蟲の根が世界樹の深部にまで侵入していることに気付く。
「こいつら、世界樹を完全に蝕もうとしている……ここで止めなければ」
ガルドは強く握りしめた剣を再び構えた。その時、エリシアが小さな声で言った。
「ガルド……私、もう一度試してみる。アルヴァリエンとの交信を」
「無理はするな」
ガルドは彼女を気遣いながら言ったが、エリシアの決意を感じ取り、黙って見守った。
エリシアは深く息を吸い、再び地面に手を置いた。そして、心の中で精霊たちに語りかけた。
「アルヴァリエン……私に力を貸して……あなたを救いたい……」
その瞬間、エリシアの体に温かな光が差し込み、彼女の魔力が世界樹と共鳴し始めた。精霊たちが再び彼女に応えたのだ。
「……応えてくれた……」
エリシアは微笑み、再びその光をガルドとエイリスに向けて放った。その光が、邪蟲の根を焼き尽くし、世界樹に新たな力を与え始めた。
「やった……世界樹が……!」
エリシアの瞳には喜びの涙が浮かんでいた。彼女の力によって、アルヴァリエンは再びその力を取り戻し始めたのだ。
「……ありがとう、エリシア。お前がいなければ……」
ガルドは彼女に向かって静かに微笑んだ。彼女の強さと、精霊たちとの繋がりが、この森を救うための鍵であることが明らかになった瞬間だった。
「まだ終わっていないわ……でも、希望はある。私たちで、この森を守り抜きましょう」
エリシアは力強く言い、ガルドとエイリスもその決意に応えるように頷いた。彼らの絆はさらに深まり、次なる試練に立ち向かうための力を得ていた。
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