第4話:「森の奥へ、迫りくる邪蟲の影」

 シルヴィオとフィリーネから森の異変について聞いたガルドたちは、森の奥深くへ進む決意を固めた。世界樹アルヴァリエンと交信し、邪蟲の脅威に立ち向かうためには、森の中心にある世界樹のもとへたどり着く必要があった。


「準備はできているか?」


 ガルドは、森の入り口で振り返り、エリシアとエイリスに声をかけた。


「ええ、いつでも」


 エリシアは力強く頷いた。


「私も準備万端です。邪蟲の力には気をつけましょう。油断は禁物です」


 聖女エイリスも慎重に答えた。


 彼らはリューンカリエンの村を出発し、森の深部へと進んでいった。


 森の中は、一歩一歩進むごとにその異様な静寂が深まっていく。普段であれば、精霊たちの囁きが聞こえ、鳥たちの歌声が響いているはずの森が、今はすべての音を失っていた。


「……森の生命力が消えているみたいだ」


 エリシアは、杖を手にしながら周囲を見渡していた。彼女の目には、森の木々が徐々に枯れている様子がはっきりと映っていた。


「邪蟲の影響だろうな。奴らはただの魔物とは違う。自然そのものを腐らせてしまう……」


 ガルドは、すぐに剣の柄に手を置き、警戒を強めた。


「この静寂……何かが潜んでいる気がします。油断できません」


 エイリスも慎重に周囲を見渡した。


 すると、その時、遠くの木々の間から低い唸り声が響いた。


「来るぞ……」


 ガルドは声を潜め、すぐに剣を抜いた。


 霧の中から、腐敗した姿をした魔物たちがゆっくりと現れ始めた。その体は黒ずみ、木々と同化したような姿をしている。邪蟲の影響を受けた魔物であることは一目瞭然だった。


「これは……邪蟲の手下たちか」


 エリシアは驚愕の表情を浮かべた。


「距離を取れ。ここは俺が先に行く」


 ガルドはそう言い、剣を構えて前に進んだ。


 ガルドは敵を前に、冷静な判断力で戦いに挑んだ。邪蟲に侵された魔物たちは通常の魔物よりも強力だが、彼は経験豊富な冒険者として、無駄のない動きで敵を制圧していく。


「エリシア、魔法の準備をしておけ!」


 ガルドは叫び、魔物たちを押し返しながら指示を飛ばす。


「分かってる!」


 エリシアはすぐに魔法を詠唱し、風の精霊の力を呼び起こす。次の瞬間、強力な風がガルドを援護し、邪蟲に侵された魔物たちを巻き上げた。


 エイリスも後方から神聖術を使い、ガルドの周囲に聖なるバリアを張る。彼女の力は邪悪な魔物たちに有効であり、次々と魔物が光に焼かれて消えていく。


「……さすがに数が多いな」


 ガルドは魔物たちの数に驚きながらも、疲れを見せずに剣を振り続けた。


「ガルド、大丈夫?」


 エリシアが心配そうに声をかける。


「俺は平気だ。むしろ、森の力がこれ以上失われる前に、急いで奥に進む必要がある」


 ガルドは言い、周囲の状況を一瞬で判断する。


「そうね……アルヴァリエンまで急ぎましょう」


 エリシアも同意し、再び前に進む準備を整えた。


 戦闘が一段落すると、ガルドたちは再び森の奥へと進み始めた。魔物たちは次々と現れるが、そのたびにガルドたちは連携して立ち向かい、少しずつ進路を開いていった。


「このまま進めば、森の中心部に到着するはずです。でも、そこで何が待っているかは分かりません……」


 エリシアは心配そうに呟いた。


「何が待っていようと、俺たちで乗り越えるさ」


 ガルドは微笑み、彼女を安心させるように言った。


「ええ、私たちならきっと……」


 エリシアは微笑み返したが、内心ではまだ不安が消えていなかった。


 しばらく進んだ後、森の霧がさらに濃くなり、視界がほとんど効かなくなった。その時、ガルドは鋭い気配を感じ取った。


「気をつけろ……何か大きなものが近づいている」


 ガルドがそう言った瞬間、地面が震え始めた。森の奥から、巨大な存在がこちらに向かってゆっくりと歩みを進めている。


「これは……」


 エリシアは目を見開いた。


 次の瞬間、霧の中から巨大な影が現れた。それは腐敗した木々と融合したかのような巨大な魔物だった。その姿はまるで、森の精霊が邪蟲によって堕落させられたかのようだった。


「……精霊の堕落体か」


 ガルドは驚きを隠せず、剣を構え直した。


「このままでは森が完全に堕落してしまう……何とかしないと!」


 エリシアは焦りを隠しきれなかった。


「やるしかない……ここでこの化け物を倒す!」


 ガルドは冷静に判断し、エリシアとエイリスに指示を飛ばした。


 ガルドは素早く攻撃を仕掛けたが、敵の力は想像以上に強大だった。彼の剣は何度も精霊の堕落体に打ち込まれるが、敵はそれをものともせず、さらに襲いかかってくる。


「私も手伝うわ!」


 エリシアは風の魔法を使い、精霊の堕落体を抑え込もうとしたが、逆に敵の腐敗した力に押し返されてしまう。


「くそ……こいつは強すぎる!」


 ガルドは苦戦しながらも、決して諦めることなく攻撃を続けた。


 その時、エイリスが後方から神聖術を発動させた。


「邪蟲の力を弱める神聖な光よ、ここに満ちよ!」


 彼女の声と共に、純白の光が森全体に広がり、精霊の堕落体を包み込んだ。その光に反応するかのように、精霊の堕落体は一瞬動きを止めた。


「今だ!」


 ガルドはその隙を見逃さず、全力で剣を振り下ろした。


 剣が深々と精霊の堕落体に突き刺さり、腐敗した体から黒い液体が噴き出した。巨大な魔物は苦しそうに体を揺らし、次第にその姿が崩れ落ちていった。


「やった……」


 エリシアは安堵の声を漏らした。


 ガルドはゆっくりと剣を鞘に戻し、エイリスに向かって頷いた。


「お前のおかげだ、エイリス」


 エイリスは少し微笑みながら答えた。


「いえ、皆さんの力があってこそです」


 巨大な敵を倒したガルドたちは、再び世界樹アルヴァリエンを目指して歩みを進めた。森の深部に進むにつれて、邪蟲の力は強まっていくが、彼らは決して立ち止まることなく進み続けた。


「次が最後の関門かもしれない……しっかり準備をしておこう」


 ガルドの言葉に、エリシアとエイリスは力強く頷き、彼らは更なる戦いに備えるのだった。

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