第3話:「森の薬草と魔物」

 ベルガルドの街にある冒険者ギルドは、いつも通り多くの冒険者たちで賑わっていた。ガルドは、今日もエリシアから依頼を受けるためにカウンターに立っていた。エリシアが渡してきたのは、森での薬草採取の依頼書だった。


「ガルドさん、今日は薬草採取の依頼です。街の薬師からの依頼で、最近不足している薬草を集めてほしいとのことです」


 彼女が渡してきた依頼書には、特定の薬草のリストが書かれていた。ガルドはそれを読み上げながら、頭の中でそれぞれの薬草の特徴を思い浮かべた。


エルモア草:回復薬の材料となる薬草。淡い青色の花を咲かせ、湿った土壌でよく育つ。特に治癒力を高める効果がある。

フィアグラス:筋肉の緊張をほぐす効果があり、痛み止めとして使われる。細長い緑色の葉が特徴で、日の当たる開けた場所を好む。

リベリカの葉:強力な解毒効果があり、毒消しの薬に使われる。暗い森の奥深くで生育し、独特な紫色の葉が目印となる。

タンドル根:滋養強壮の薬に使われる薬草で、根が重要な成分。赤褐色の根を持ち、乾燥した土地でよく育つ。


「これだけの種類を集めるとなると、少し手間がかかりそうだな。最近、森で魔物が出るという噂もあるし、気を引き締めないといけないな」


 ガルドはエリシアに軽く頷いて答え、依頼を受け取った。彼は森に向かう準備を整え、出発の準備を進めた。



 森へ向かう道はいつも通り静かで穏やかだったが、ガルドは慎重に周囲を警戒しながら進んでいった。依頼で指定された薬草の中には、特に希少なものも含まれており、見つけるのが難しいものもあった。特にリベリカの葉は、森の奥深くに行かなければならないため、時間がかかるだろうと彼は予測していた。


「まずはエルモア草か。湿った場所なら、近くの川沿いに生えているだろう」


 ガルドは森に入ると、手際よく必要な場所へと向かった。川の近くには青く小さな花を咲かせたエルモア草が群生していた。彼は迷うことなく、慎重に根を傷つけないように摘み取り、袋に入れていく。


「エルモア草は順調だ。次はフィアグラスだな」


 日の当たる開けた場所を好むフィアグラスを探すため、ガルドは森の中を歩き続けた。しばらくして、開けた丘に到達した。そこには緑の長い葉が風に揺れていた。


「ここにあったか」


 フィアグラスを一束摘み取り、ガルドは次の目的地へと向かった。



 薬草採取は順調に進んでいたが、次に目指すリベリカの葉が生育する森の奥深くに差し掛かった時、周囲の空気が変わったのをガルドは感じ取った。辺りは急に暗くなり、不自然な静寂が森を包んでいた。


「……何かがおかしいな」


 ガルドは剣の柄に手を置き、周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進めた。この辺りにはリベリカの葉が自生しているはずだが、それ以外にも魔物が潜んでいても不思議ではない。彼は慎重に足元を確かめながら、森の中を進んでいった。


 しばらく進むと、ガルドはようやく暗い木陰に紫色の光を放つリベリカの葉を見つけた。


「ここにあったか……」


 ガルドが手を伸ばして葉を摘み取ろうとしたその時、背後で低い唸り声が聞こえた。振り返ると、そこには巨大な獣が立っていた。黒い毛並みを持ち、目は赤く光っている。おそらく、この森に現れた魔物の一種だろう。


「ふん、やはり何かいたか」


 ガルドは素早く剣を抜き、獣に向き直った。その獣は、獰猛な表情で彼に向かって突進してくる。ガルドは落ち着いて、獣の動きを見極め、素早く回避した。巨大な爪が地面に深く突き刺さり、土を巻き上げる。


「お前みたいな奴が、この森を荒らしていたんだな」


 ガルドは獣の背後に回り込み、一気に剣を振り下ろした。鋭い剣筋が獣の背中を切り裂き、血が飛び散る。しかし、それでも獣は倒れず、再びガルドに向かって襲い掛かってくる。



 獣の攻撃は荒々しいが、その動きには規則性があった。ガルドはそれを見抜き、次々と獣の攻撃をかわし、カウンターを入れていく。獣が大きな爪を振り下ろすたび、ガルドは的確にその隙を突き、徐々にダメージを蓄積させていった。


「どんなに強力な魔物でも、冷静に対処すれば恐れることはない」


 ガルドは心の中でそう自分に言い聞かせ、獣の動きが鈍った瞬間を見逃さなかった。最後の突進をかわし、ガルドは獣の首元を狙って力強く剣を振り下ろした。


「これで終わりだ!」


 獣の首元に深く剣が突き刺さり、ついにその巨体が崩れ落ちた。ガルドは息を整えながら、剣を抜き取った。静けさが森に戻り、ガルドは一度深呼吸をしてから、倒れた魔物を確認した。


「やれやれ……大したことはなかったが、手間を取らされたな」


 彼はそう言いながら、リベリカの葉を慎重に摘み取り、袋に収めた。魔物を倒したことで森は再び静かになり、ガルドは残りの採取を進めることにした。



 次に目指すはタンドル根。乾燥した土地に生えるこの薬草は、森の外れにある岩場で見つかることが多い。ガルドは魔物を倒し、森の出口に向かって歩を進めた。


 岩場にたどり着くと、赤褐色の根が露出している場所を見つけた。それがタンドル根だ。彼は根を掘り起こし、袋に収めた。


「よし、これで全て揃ったな」


 ガルドは袋を確認し、薬草がすべて揃っていることを確認すると、森を後にするために足を進めた。魔物の出現により一時的に危険な状況に陥ったが、すべては順調に終わった。



 ベルガルドへ戻る道中、ガルドは再び周囲を警戒しながら進んだ。魔物が一度現れたということは、他にも潜んでいる可能性があるからだ。しかし、道中は何事もなく、無事に街にたどり着いた。


 ギルドに戻ると、エリシアがカウンターで待っていた。


「お帰りなさい、ガルドさん。薬草は無事に集まりましたか?」


「問題なく全部揃えたよ。ただ、魔物が出たな。森の奥で一匹倒した」


 ガルドが報告すると、エリシアは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「さすがガルドさんですね。でも、無事で何よりです」


 彼は依頼書をカウンターに置き、集めた薬草をエリシアに渡した。すべてが無事に揃っていたことを確認し、彼女は安心した様子で報酬を手渡した。


「今日もお疲れ様でした」


「まあ、いつもの仕事だ」


 ガルドは軽く笑い、報酬を受け取るとギルドを後にした。事件はあったが、彼にとってはいつもの日常であり、特別なことではなかった。


 こうして、また一日が終わり、ガルドはいつものように次の依頼を待つ日々へと戻っていった。

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