幼馴染宇宙人が地球から連れ帰ろうとするのでブチギレている私がいる件
@reesya
短編
現在、男女が揉めている。
しかし、日常とはいえない容姿を持つ男が平凡そうな女に必死になって説得しているとなれば、異常な場面だろう。
幸いここはマンションなので声は他の人に聞こえないだろうけど、耳元で懸命に頼まれるとなると鬱陶しい。
男に女は冷たく凍える如く、冷え冷えの声で否定し続ける。
「いや。絶対にいや」
「なんでだよ。お前はこんなところにいるべきじゃない!」
「うるさい」
叫ばれるように言われ、額がメキッと怒りに歪む。
「地球人じゃないメロウにこんなところとかいう権利、ない。わたしの愛する地球を侮辱するなんて良い度胸だね?」
男女が話すには些か不可解な会話だ。
なぜ、こんな目になっているかというと、元を正すと男女の女の方、つまりわたしの遍歴が原因。
前世というものがあるのだが、地球とは違う星であった。
つまり地球でいうところの宇宙人。
そんな宇宙人のわたしが地球人として生まれてよかったとずっと思っていることなど、男には分からないのだろう。
「なにがダメなんだ」
「私の大好きな漫画がないところとか?」
「はあ?漫画ってなんだ。それと、それがないのがなんなんだ?」
「リスペクトし無さすぎでしょ。嘘みたいに一直線でここに来たのか」
前世では幼馴染がいたのだが、目の前のこの人だ。
いや、厳密に言うと人類でもなく、どちらというと決まった形のない種族だ。
びっくりであるが、見る人によって見た目が変わると言う宇宙でも珍しい存在。
そして、無形故に攻撃が通じないという強いものだ。
しかし、性格は凶暴ではなく理性的な男。
前世では求婚をされていたが、私の寿命がなくなりかけていたので、受けてない。
短命種ではなかったが、なぜかなくなりかけていた。
その後このメロウがなにをしていたかなど、知らないが、お見合いを兼ねた親睦のイベントに出ていたことを考えると、お相手探しなのだろう。
わたしは地球に宇宙人が来たと言うミーハーに惹かれて見に来ただけだった。
とんでもない美形が来ていたので驚いていると美形が私の前世の名を言うので直ぐにわかった。
前世で彼は銀色の液体に見えていたので、彼が人によって見た目が変わると言っていた意味が漸くわかったと言う変な話。
そんなメロウに見つけられてしまい、懐かしいねと話すのかと思えば、部屋に押しかけてきて、なんでか揉めている。
わたしの住んでいた星でもある惑星にさっさと移り住めという無理難題。
「ありえない。論外」
宇宙に地球の漫画があるってんならわかるけど、ないじゃん。
「ふわふわの生き物はいるだろ?」
「地球にいるふわふわとあれは違う。地球のふわふわは最高級なの。それと漫画。漫画はない」
「だから漫画ってなんだ」
「知らないのなら調べればぁ?」
宇宙に連れて行こうとする男を足蹴にして、部屋から追い出した。
とんでもない美形を足蹴にしたら本来は怒られるかもしれないが、わたしにとってはただの宇宙人である。
後日、再びやってきたメロウは漫画を手にやってきた。
「漫画読んだの」
やっとこれで話し合いが出来るなとちらりと視線を寄越す。
それと、こちらの住所をどうやって知ったのかと聞くと政府が調べてくれたのだとシレッというので火山が噴火するかと思った。
憤慨も憤慨。
「安易にストーカーに情報を渡すなって言っておいて。わたしは怒ってるって」
「え、ああ」
よくわかってないメロウにため息を吐く。
そして、彼なりの漫画についてのリスペクトを聞く。
「面白い」
「うんうん。で?」
「でも、移住を拒む程じゃない」
「ギルティ」
「え?なんでだ!?」
「わたしの好きを否定したから。求婚者としてマイナス点。加点」
「な、バカな!」
鼻であしらう。
トボトボ帰っていく男。
塩撒いとこ。
「ぎゃっ!」
顔面に当たったみたい。
ごめんごめん。
やはり後日またきた男と政府のお偉いさんっぽい人。
「今度は味方を連れて後参上ね」
嫌味を言うと男の顔が悲しみに溶ける。
勝手に悲しんどけ。
わたしから娯楽を奪う奴は悪だ。
「〇〇〇〇さんですね」
フルネームを聞かれてにっこり笑ってくる男に不機嫌に対応する。
「あら、これはこれは!わたしの個人情報を勝手に調べて教えたお国の方ではないですかあ」
というと、ぐっとなる男。
国民性で何も言わないと思われては舐められるもんね。
「メロウ。わたしのこと、喋ってないよね?話したら絶交だからね」
「話してないっ!本当だ」
「ふーん」
怪しいけどまあいい。
何用だと聞くと、わたしとお付き合いしたいのだと仲介される。
「はあ?既に断ってます。無理です。普通に私を尊重してくれないので」
「しかし、我が国から初の宇宙人の夫を得られますよ」
「貴方からは女に見えるはずですよね?それと、バカにするにも程があります。お断りします。わたしは地球に永住するので」
綺麗事を蹴り上げた。
「お付き合いしてくれるのならばサポートさせてもらいますから」
「無理です。地球が他の星へサポートは出来ません。なぜなら技術的に不可能ですから」
自分は地球から離れない。
ありとあらゆる漫画のデータを渡すから、どうかお願いしますと言われたが無理だと首を振る。
無理強いしたら二度と会話しないとメロウに言うと引き上げていった。
なあにがありとあらゆるデータを渡すだ。
漫画だけなわけがないだろう。
お菓子とかおかずとか、兎に角地球が好きなんだよ。
地球という惑星のファンなのだから。
「はあ。地球人にはこういうのって分かんないよね」
前世の惑星はあまり人が居なかった。
トラブルに見舞われて疲れ切った人たちが避難先に選ぶくらいには秘境の星。
あるのは誰かの声だけ。
楽しみなんてなんにもない。
地球はどうだ?
なんでもある。
海を見ているだけでも1ヶ月は過ごせる。
風が吹いて、少し見回せば草が揺れていた。
見飽きることなんてない、永遠の楽園だ。
地球人は想像出来ないよね。
なんでもある星なんだから。
それなのに、あの秘境に戻れと言うなんてただの刑罰だ。
彼もなんで未だあの星に括ってるのかな。
お見合いをしているのに、あの星を知ったら相手は逃げると思う。
どれほど相手にとって最高の顔に見えても耐えられるとは思えまい。
後日、今度は1人で来た。
「連れて帰れないのなら俺もここに暫くいることにした」
「勝手にすれば。私と関わらないでね」
「い、いやだ」
「あなたが嫌だと言うようにわたしもいやなの」
言い聞かせる。
サロメは政府の人に勧められた芸能人という仕事をすることにしたらしい。
確かにそれは転職かもしれない。
男には女に見えている筈だが、そこはどうするのかね。
そして、デビューをしたらしい。
やたらテレビで放送されている。
「やっぱり美形に見える。他の人には全く違うように見えるってのか。そういや、あの星でも凄く毎回みんなから話しかけられていたなー。銀色液体ってそんなに人気なんだって思ってたけど、忘れてたわ」
バリっと紙を破きながらゴミ箱に捨てる。
これは政府からのお願いする手紙とお金。
お金をあっちの星に持っていけても使える場所がねえんだよ。
つくづく、政府もメロウの星のリスペクトしてないな。
とはいえ、聞かれても何もないので話すことなんてないんだろう。
何もないって言葉は地球ではお店がないとか人が少ないとかに変換される。
前世の星のなにもないは、星と数少ない住人以外、草も生えてない。
未開の土地と言えればいいが、なにもないから地平線を余裕で見渡せるから未開ではない。
田舎を通り越した無だ。
「来たぞ」
メロウが勝手にくる。
関わるなと言ったばかりなのに。
「開けないから」
「え?あ、し、新刊持ってきたから」
と、慌てて漫画を取り出して見せてくる。
鍵を開けてあげた。
「わかってるじゃん」
「担当者にこうすればいいって言われた」
「バカなりに人の話は聞けたのか」
わたしの言葉は無視する癖に。
「悪い。無視したつもりはない」
「わたしは地球に居続けるからね」
「う」
悔しそうに俯く。
「はあ……メロウも地球に住めばいいでしょ」
「地球はいいところだ。みんな優しい」
それは宇宙人+絶世の顔だからだ。
「わたしはあそこの生まれだから、もうあそこに戻るつもりはない。なにもない景色なんて見続けるつもりもない」
「そ、そんな。あんなに安全なのに」
「攻撃が効かない存在がなに言ってんの。攻撃されても傷つかないじゃない」
「そういう意味じゃない。妻になれ、夫になれって強引に言い寄られてまともに過ごせない」
「今の貴方とやってること同じ。やったじゃん。同類になったねえ?」
「そ、そんな、こと、言うなよ」
「自分はされて嫌なことを人にするんじゃーん?サイテーだよ。ほんと、悪魔のしょぎょー」
何もいえなくなったメロウは落ち込んだまま、漫画をわたしに寄越して部屋に居座る。
折角入れたんだから時間まで居座ろうってことか。
私的にはどっちでもいいや。
どうせ漫画を読んでたら時間が進むし。
「地球に住んだら付き合ってくれるのか」
恐る恐る聞いてくる。
「ん?それは無理かも。だって付き合う理由ないもん」
「お、おれはお前が好き?なんだ」
好きと言う言葉は地球のものなので学んできたらしい。
「へえ。でも私の人生2人目いらない」
「おれの顔はお前の好みになってるのにか」
「前は銀色の液体だったのに今さら好きになるわけないよねえ。自意識過剰だって」
例えばジュースが擬人化しても困るだけだ。
かっこいいけどジュースなんだよね、となる。
「と、隣に住みたい」
「良いけど。毎日こないでよ」
友人の距離でいてくれ。
「わ、わかった」
凄い渋々に応えた。
なんでこんなに塩対応なのかというと、不誠実なことしか、してないからだ。
政府から個人のプライバシーを得て、勝手に来るわ。
政府の人に話して私と付き合おうとするわ。
全て悪手だ。
「わたしの好感度がじわじわなくなってった結果だし」
無視して漫画を読み耽る。
「あと、これ、おれの給料」
「いや、いらん」
「そ、そんな。だって貢げば上手くいくって」
「ただ向こうの星で使えないからいらないものを押し付けようってやつだよね?」
「それもまあ、あるが」
「あるが?」
「これはお前のものにしてくれ」
「じゃあ、メロウの貯金として預かっておく」
これはもう言っても無駄だなと諦めた。
メロウはまるで騎士みたいに頑固だ。
真面目なのに自分勝手。
これが小説のキャラなら読むのやめるキャラクターせいだ。
「これをもらったからって付き合わないし、勘違いしないでね」
「わかってる」
「しょぼんとしないで、シャキッとして。ほら、ジュース作ってあげるから」
私的に彼は弟分なんだよね。
もし、生きてたら地球でいう結婚をしていたかもしれないが、それは娯楽がなかったから。
「これって辺鄙な村の幼馴染が都会に行って帰ってこなくなるパターンの亜種だっ」
ラノベで見る展開。
メロウはジュースを飲む。
「仕事だったんでしょ。どうだった」
「質問されたことに応えただけだ」
「例えば?」
「よくわからんが、どうして地球に来たのか、とか。好きな食べ物はなんだとか」
「好きな食べ物ってなに?」
「え?知らないのか?」
「え?うん」
なんでだ!とショックを受けた顔をされる。
「しゃーないじゃん。あのときはもう消えるのがわかってたのに覚える意味もないし。メロウの名前だって本当は覚えておく必要もなかったし」
「それもそうか」
「で、他には?」
「他か……相手の好みとか」
「わたしの名前出してないよね?絶交だかんね」
「してない!断じてっ」
「好きな人は居るってのは答えたのか」
「ああ。嘘をつく理由もない」
「皆びっくりしたでしょ」
「してた。俺が誰かを好きになってもなんら可笑しくないのに」
美形はだれも好きになられたくないってことかな。
「でも、芸能人になったら彼女になってくれとか、飲みに行こうって誘われるよね」
「マネージャーが付けてくれたボディーガードって人たちが追い払ってくれる」
「ああ。そういう解決法もあるのか」
ある意味、地球に来てよかった事かもしれない。
そろそろスーパー行こう。
出掛ける準備をしていると俺も行く!と言う。
勝手にすればと投げやりになる。
どうせ困ったことになったら政府が間に入るだろう。
玄関を出て外に出るとやはり視線はメロウの元へ行く。
「スーパーってところは初めて行く」
「食べ物とか売ってるところ」
「へえ。星にはなかったよな」
「あるわけない。なにもない」
すっからかんの空き家だ。
スーパーに行くと彼は政府かマネージャーに渡されたのであろうスマホを手に撮影していた。
写真を撮ると商品が分かるアプリだろう。
しかも、最新機種。
さっきからあちこちからシャッター音がする。
皆隠し撮り、盗撮をしまくっているのだ。
「バナナってやつ、すごく黄色いな」
いろいろ感想をつぶやく。
あと、SNSに本当につぶやいている。
マネージャーにつぶやくようアドバイスされたらしい。
SNSでは「当たり前だけど、メロウに言われるとかなり黄色いよな」とかいう感じの投稿が来る。
「なにを買うんだ」
「カップラーメン」
「おれも食う」
「自費で勝手に買えば」
指を指す。
「お前の好きなのを買いたい」
「全部好きだから決めらんない」
「なら、全部買う」
「マネージャーに頼めば良いよ。お店の迷惑になるから」
メロウってこんなにベタベタしてこなかったよ。
むかしはなにもなくて、世間も狭くて気づかなかっただけだな、きっと。
後日、カップラーメンと漫画を持参してきてウチにたむろした。
あと、芸能人のマネージャーもウチに頻繁に来るようになった。
追い返しても許されるよね。
「仕事に行きたくない」
「なんで私に言うかね」
「いってらっしゃいって言えよ」
「マネージャーに頼めば?読むのに邪魔だから退いて」
足蹴にして部屋から追い出した。
仕事の件はマネージャーに相談しろや。
漫画がもう直ぐドラマ化するらしいから、調べねば。
玉ねぎ王子、ドラマ化!
と、ホームページが出来上がっている。
ふむ、俳優は。
「はあ?」
今世紀最大にキレそうだ。
なんで人間役に宇宙人を当てがう?
「しかも、メロウだから玉ねぎ王子の設定改変じゃん!くそ!芸能人なんて反対すればよかった!」
原作改変なんて聞いてない。
メロウはメロウだ。
メロウの知らぬ間にマイナスに加点されていた。
今までなど比べ物にならないほど。
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