第2話 日常系生徒会アニメなんてなかった時代
翌日の放課後、生徒会室にて。無駄に重厚な会長机越しに
「校長からお達しがあった」
「お達し?」
ソファに座った麻衣が首をかしげる。俺の隣に立つ
「新聞部から発表された情勢調査の結果を受けて、ということだろう?」
「さすが察しがいいな、文。夏目の勢いに校長も焦ってるみたいでな。お達しというか、ぶっちゃけお叱りだった」
「会長。そういう品のない言葉遣いは……」
「ごめんなさい」
やっぱ葉月が隣にいると緊張感が違うぜ……全校男子憧れの大和撫子がなぜか俺を慕ってくれているというのに、ぶっちゃけ幻滅されたくないからな……!
というわけで俺はキリッとした顔を作り直し、威厳たっぷり宣言する。
「六月の生徒総会で、俺は必ず夏目を叩きのめす。審議の場であいつらを圧倒し、全校投票で過半数を奪って、学園祭での『ファイヤーストーム女人禁制の伝統』を断固死守してみせる」
「会長……! さすがだわ……! さすが私が一生ついていくと決めたお方……!」
うっとりとした顔を向けてくる葉月。よかった、響いてくれたみたいだ。案外チョロいところもあるからな、こいつ。一生はついてくるな。
一方の文はいつも通り西洋人形のような真顔のまま。麻衣に至っては、葉月の目が俺に向いたことから気が緩んだのか、ダラけた態度でボソッと、
「女人禁制ねぇ……たかだかキャンプファイヤーで……」
「ファイヤーストームよ。それと、脚が開いているわよ、麻衣さん。はしたないわ」
すぐさま葉月からの指摘が飛ぶ。
麻衣はしぶしぶ姿勢を正しながらも、唇を尖らせ、
「別にスカート短くしてないんだし関係ないと思うけどなー……」
そして、チラッと俺に視線を送ってくる。
何だその微妙に意地悪げな瞳は……まさかお前、「てか男子なんて哲也しかいないわけだしー? 下着くらい哲也には数え切れないくらい見られたことあるしー?」だとか口走るつもりじゃねーだろうな!? 絶対やめろよ、葉月の前で!
「そういう問題ではないでしょう。麻衣さんも一人の淑女として、」
「はいはい。わかった、ごめんなさーい」
副会長の追撃をかわすように、スンとお澄まし顔を浮かべる麻衣。その直前、口元だけで向けてきた
はぁ……帰ってからまたイジりに来るんだろうなぁ、こいつ。めんどくせぇ……。
「しかし、わたしは白峰の考え方にも一理あると思う。これは、
「あら。文さん、まさかあなたまで女人禁制廃止派にシンパシーを?」
「そうは言っていないだろう、京子。わたしはあくまでも責任の所在と難波一人にかかる負担について――」
従姉妹からの軽蔑の眼差しに淡々と反論する文だったが――俺の顔を見て、言葉を切る。
すまん、文。俺のことを思ってくれてるのはありがたいが、これはもう決めたことなんだ。生徒会内で揉めるのは、俺の本意ではない。
「どうしたのかしら、文さん。言いたいことがあるのなら最後まで言いなさい」
「……いや、わたしが間違っていた。難波と京子の方針に従おう」
「そう。分かればいいわ。麻衣さんも理解しているわよね? この高校のファイヤーストームは地域一丸となって守ってきた、尊い伝統行事なの。桜岡第一高等学校の価値を象徴する儀式なのよ。レクリエーションではないのだから、男女差別などというものにも当たらないわ。女子も含め、一高生、一高卒業生としての自分達の価値を高めるための伝統なのよ? 先輩達が紡いできてくれたありがたいバトンを、淫らな恋愛イベントに堕としてしまうなんてあり得ない話だわ」
「わーかってるってば」「わたしも当然承知している」
麻衣と文の返事を受けて、葉月はゆっくりと目を閉じ、
「……まぁ、あなた達も一応、会長が選んだ生徒会役員だものね」
妙に「一応」を強調したことが気にはなったが、納得してくれたのならいいだろう。頼むからこれ以上、俺の放課後の居場所をヒリヒリさせないでくれ。なぜ俺は女子ばかりを選任してしまったんだ。おちゃらけ担当の男子いるだろ、これ。
「もしもこの先、会長と私の方針に異議を覚えるようなことがあれば、すぐに報告しなさい。会長がその場であなた達を罷免して下さるわ。この学校は会長と私だけでも守れるの。あなた達はせいぜい会長の足を引っ張らないよう、ハレンチな言動を控えることね」
うぅ……もっと和気あいあいとした生徒会がよかった。何かそういう、生徒会が生徒会室でダラダラしてるだけの漫画とかで心を癒やしたい……そんな漫画あるわけねーよなぁ……!
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