第11話
甘いという感覚を知った4人は顔が今にも溶けそうだ。
私はもう溶けてるけどね。
トロッと。
頬も落っこちてる。
4人は地球食を既に食べているからこの反応で済んでいた。
まだの人は大統領も含めてだろう。
と、考えていると大統領が窓に張り付いていた。
おつきの人は引き剥がさはないの?
奇行をしているのに。
「「「大統領」」」
「やあ。たまたま通り掛かっただけさ。おや?おやおや、なんだかなんとも芳醇な香りがする」
たまたまじゃないだろうことは皆知ってる。
この星の良くわからないところは、飯マズな癖に味の表現が出来るところ。
なんで知ってるんだって感じ。
「あー、大統領も食べますか?お付きの方も……」
「良いのかい?いやあ、すまないね。もらおう。いやあ、あはは。すまないねえ」
と、全くすまなく思ってない声音。
でも、こうしてどら焼きを食べられるようにしてくれた大統領にも食べる権利はある。
地球から大統領に直通で送ることができたのにしなかったのかな。
アニメのことしか目になかった大統領が食べ物に注目することはなかった可能性を思い出したが、どら焼きくらいは注文しそうだ。
しかし、それをしなかった理由とは。
どら焼きを貰わなかったのかと聞くと、ゼクシィ大統領はニコッと笑う。
「ノラえもんの描かれた旅のしおりに我を忘れていた」
と回答を得られて私達は「成る程なあ」と至極納得。
もうそれしかない。
クリスマスプレゼントをもらった子供みたいにはしゃぐのだったら、忘れてしまったことはなんら、可笑しくないです。
地球も下手にものを渡すのを躊躇したのだろう。
何が相手の気に障るのか分からないからなあ。
もう少し反応を見てから渡そうとしたんだろうな。
大統領はよっこらせと大きい余裕のあり過ぎる、ウチのソファに座る。
そこにどら焼きを再度美味しく調理出来る(本当に何故うちの星で作られたのか不明)調理道具に入れて、出来立てどら焼きを三つ皿に寄せ、待ちわびている人達のところへ持って行く。
大統領はワクワクした顔で手にとって食べる。
初めて食べるものになるので私は彼の顔を真正面から見た。
口に入った途端に、彼の顔は──。
口を一切動かすことなく笑顔のまま微動だにしない。
護衛の人達は食べる前にそれを目撃したようでそのまま皿にどら焼きを戻した。
卒のない動き。
大統領を毒見の目安にしてるぞこの人達。
それにしても、美味しくないといった反応をしているせいで、折角のどら焼きが。
美味しいと理解すれば食べてもらえるだろうから、残しておこう。
両親と幼馴染達が目を光らせているのが、見える。
狙ってる。
大統領は大統領で固まったまま動かず私達は引き続きノラえもんの放送を見ることにした。
大統領の前に緑茶も置いておく。
多分高級緑茶だ。
護衛の人達は無言で拒否していた。
美味しいのに〜。
──シュッ
「大統領復活した」
ゼクシィのやんごとなき男は急に立ち上がり何度か口を動かして飲み込んだ。
「なんだこれはあっ!」
「大統領、どらやきだよそれ」
「ノラえもんの食べていたものが、これだというのかっ」
彼はもぐもぐとまた一口。
護衛達は予測していた結果と違うと気付く。
「美味いっていうんだぞ」
「美味い!?……そうか、これが。ノラえもんが大好きな味」
「甘い。それが私の食べたかったものです。そして、この星の皆に食べてもらいたかったもの」
「そうか。食べ物の描写が細かくて不思議だったんだ。今なら、あれだけでは伝えきれてないね」
「どれだけ描写しても知らない未知の味覚ですから」
苦笑いした。
それに関しては、知らない人達が読むので控えめにするしかなかったのだ。
きっと、これからはその味をも布教してみせる。
大統領の3口目を味わうようにする。
護衛らにも食べるように指示すると、彼らも恐る恐る食べた。
その瞬間、護衛は涙目になった。
護衛中なので、耐えたのだと思われる。
「緑茶もどうぞ。どら焼きとの相性が良いですから」
勧めると彼も彼らもいそいそと飲む。
パアッと顔を綻ばせる。
「美味しい」
「美味い」
「「美味い美味い」」
ウマウマウマ、と3人は放心しながら食べた。
その間、残りのリーシャ達はノラえもんの放送を見続けた。
今日のお昼はレトルトの牛丼。
「今日のお昼はなにかしら?」
「皆、今まで通りゼクシィの食事してても良いんだよ。私に合わせなくても」
と、こちらは本気で述べたのだが、全員食べたいと強く望んだ。
地球産の食べ物が美味しすぎてそれを食べ続けたいとのこと。
ほほう。
皆、美味しさを知ってくれたのか。
大統領達も地球の牛丼に興味があるようで食べたいなー、という顔でジッとこちらを見ていた。
全員に牛丼を出して黄色い阿鼻叫喚を我が家で繰り広げた後、大統領は声を改めて私へ告げる。
「うん。決めた。ゼクシィはこれから地球と食べ物などを貿易したい」
「……!」
リーシャは感動で涙が出た。
しかし、何を輸出するのだろう。
「技術提供はやめてほしいです。地球にとって急な技術の導入は地球という星を壊しかねません」
「ああ。君の言いたいことは分かっているよ。地球の技術力は既に分析済みだから」
相手の内容にホッとした。
ワープ機能などを渡されたらどうしようかと危惧していたのだ。
ありとあらゆるものが平和に利用されないことは、天才大統領もしっかり分かってくれているらしい。
それは地球に限った事ではないし、他の星も同じところだから。
「そうだね。例えば君がリストに追加したノラえもんの空き地セットが安全に取引出来る。それと、ノラえもんミュージアムを地球にも作ろう」
「あー、あの、ゼクシィきっての超巨大アミューズメント施設ですか」
リーシャの顔がひきつるのも無理はない。
住民の要望と大統領の権力が合体した結果、出来た施設だ。
ノラえもんの地球の漫画とアニメの流通により、規模が100倍になるのだろうな。
「作る場所は日本ですか?アメリカですか?」
「日本に決まってるじゃないか?なにか変かな」
「アジアでも人気で、行きたがりますよ」
「なら、アジアにも作ろう。私の権限で作らせてもらう」
政治的な思惑など一切ない、ノラえもんのガチファン思考で地球は各国にミュージアムが作られるみたい。
そこに公式も絡ませられないかなと思いながら、無理かもしれないと引きつった。
多少ゼクシィの技術で打ち立てられるそれに、大統領の満足そうな顔が良く見える。
ありがた迷惑になってないかな?
「ですが、それだと地球は損をしてませんか?」
「そうでもないよ。私の星は過言ではないほど技術力に優れている。ゼクシィと友好を結ぶことは他の星の者たちからすればノドから手が出る程の恩恵」
ジャニクも言ってた。
「他にもこちらから輸入できるものを考えておく。勿論、君達も自由に采配してくれ。干渉をするつもりはない」
「分かりました」
実はうちの主食の固くて不味くて食べられたものじゃない食事は腐らないから、非常食になる。
それも輸出するのかもしれない。
生産者をなくしたくないから、大統領も無茶なことはないだろう。
保存可能だからあそこまでエグみがすごいのかもしれないと身震いした。
「地球にゼクシィの住人が行きたがったらどうします?」
「行く理由なんてあるのかい?」
「アニメの聖地巡礼です!」
「聖地じゅんれー?」
全員がハテナマークを浮かべる。
「それに、ノラえもんのモデルの猫とたぬきは地球にしかありません」
そう宣言すると、大統領はキリッとした。
「ムッ。地球の生物と景観を保護した方が良さそうだ」
「そ、それだけじゃありませんよ。私の小説のファンである大統領は知ってますよね?大航海」
「勿論ッ。仲間と海を冒険する話だね」
早口だ。
「海は天の川銀河で数少ない海のある地球にあります。大航海もです」
「それは……確かに、そうだ」
「そしてなにより重要なのは。その物語を思いついて世に出したのは地球人です」
大統領は、宝物の一番下に隠れていた宝石を見つけた顔色になった。
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