第10話

ゼクシィ大統領が私達の前で言葉をなくしてから3日後、いつもの大統領が目の前に登場した。


「ノラえもんを大統領ちゃんねるで放送させて欲しい」


「全星の住人が見ることになりますね」


私はこの人がそう言うことを予測していた。

ノラえもんの大ファンというのは公認というか、毎回なにかコメントしているもん。


「私は構いませんよ。大統領が地球を探すことを優先してくれていたのは知ってますから」


「大統領はそんな私的なことはしないよ」


「そういうことにしておきましょう」


呼ばれた幼馴染の一人がポソっと付け加える。


「大統領、大統領の星でこうして自由にさせてもらえているのは貴方のおかげでもあります。私が出来る恩返しで皆笑顔になるなら惜しみません」


リーシャは温かくなる胸に本音を伝える。


「大統領の尽力がなかったら、叶う事はなかったです。大統領も大統領のしたいこと、してください」


ジャニクとアルメイも頷く。

ゼクシィ大統領は頭を下げて礼を尽くす。


「アニメ布教隊の対象は全星民。大統領もその一人だもんな」


ジャニクが締めくくる。


「ありがとう」


大統領は大好きなアニメを手ずから携えることが嬉しくて堪らなかった。







「おーい、急げよ!」


「まだ時間までありますよ」


リビングにて大統領公式ちゃんねるの生放送を今か今かと待ち侘びる声が、各家庭から聞こえてくる。

両親達もニコニコと大きなソファへ座る。

この日の為に余裕で座れるソファを買った。

大統領が太っ腹に星の各地に大型の放映出来るプロジェクターを設置していて、大きな画面で見られると外でも住人達の賑やかな声が聞こえる。

飯不味世界は続行中なので屋台が出てても結果は見なくても分かる。

屋台なぞ出すなっ。

匂いだけで心が死ぬ。


そういえば、大統領が完徹、徹夜3日でアニメを見通したと護衛の人がヒソっと教えてくれた。

それでピンピンしている大統領はやはりヤバい。

簡潔に計算すると200話か300話を観た可能性があるってことだよ?

人格崩壊しなくて何よりだ。

私なら現実とアニメとの境界がなくなってる。


さて、大統領ちゃんねるではノラえもん作者公認によるアニメの放送が行われる事になった。

先ずは大統領の今日のお気持ちが流れる。


『まずはこの放送を譲ってくれたアニメ布教隊に感謝を伝えたい』


「俺らの事だ」


「うちの星の大統領はこういうとこあるから支持率100パーセントなんだよね。ここまで行くと意味不明な支持率」


「おごる事なく上に立ち続けるのは困難です」


『これよりノラえもんの放送を始めます』


「会えるアイドルとか会いに行けるアイドルとかあるけど、大統領の場合、会いに来るとか、いつのまにかそばに居る大統領なんだよ。あれ?都市伝説かな?」


ノラえもんが始まり主題歌が始まると私を除いた全員が歌い出した。

乗り遅れまいと私も合わせた。

外からも聞こえてくる。

BGMとして知られているから耳に馴染みがあるのだろう。


シナリオが始まると空き地空き地と聞こえた。

やっぱり皆言ったよ。

更なる空き地セットの売り上げが増えるかも。


ノビノビくんの悲しいシーンがあると視聴者達は泣いたり笑ったり、ゼクシィの住人相変わらず感受性強い。

2話、3話と進むと出店から動く音が消えた。

お、おおう、店の店主達も見入っているみたいだ。

大丈夫かな。

焼いてるやつとか焦げてない?


「んん?あ、やっぱり焦げくさっ。絶対誰か焦がしちゃってる」


私はいつでも観られると言うのもあって気持ちの余裕がある。

窓を開けて焦げ臭い屋台を回ってよそ見をしている人に声をかけていった。


「ただいまあ」


「あれ?」


アニメを見終わった4人はこちらを見る。

見なかったのかと不思議に問われたものの、屋台の焦げていたものを指摘して回ったよと苦労話をする。

放送は明日もあるとのことで、いつでも見直せるのだが、皆リアルタイムでみたいようだ。


ノラえもん初公式放送の為に私は皆にサプライズを用意していた。



「あのね、ノラえもんの好物は知ってるよね?」


先に何話も見てしまっている四人に聞くと全員どら焼きと答える。


「そ、そ!正解!正解の皆さんにはー。特別にいいい、実物のおお、どら焼き用意してまっす!」


手元にどら焼きをどーんと見せる。


「「「どら焼き!」」」


あと、二人の両親の分。


「うお、まじ、良かった」


震えるジャニク。

最近良く震える。


「こんな面白いもんを一番近くでさせてもらえるなんてよ」


「だから、アニメをわたしは布教するんだよ」


ジャニクみたいに感じてくれる人を増やすのはユーザーとして、コンテンツを長生きさせるための願い。


「でも、アニメはまだ一つ目、これからもっと増えるかから忘れないでね」


皆で食べたどら焼きは甘くて、地球に行って良かったとじわじわと実感し始めた。

緑茶も粉でもらっているので配るとノラえもんで飲んでたやつだ、と皆んなが喜ぶ。

緑茶とどら焼きの相性は鉄板だよね。


「どら焼きってノラえもんみたいで可愛い」


「分かるわそれ。丸くてふにゃんってしてて、もちっとしてるわよね」


母とジャニクが感想を言い合う。


「お、美味しいの……!」


どら焼きって地球ではお高めなお菓子なんだよね、確か。

今は安いのとかあるのかな?

このどら焼きは接待用だから絶対高いよね。

日本円で千円以上するの、聞いたことがある。


「甘いって、こういう味なのっ!?」


これって、それくらいしそうなくらいの高級味がした。

多分、ノラえもんのどらやきって安い方のものだから、ノラえもんが食べてる味じゃないかも。

でも、オイシイならなんでもいい。

ありがとう地球の人達。

パクっと食べた。

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