第10話
あの日もレッスンがあり、彩子先生の指導の日だったので、そのままコンクールのための指導もしてもらえた
次のコンクールは、少し挑戦してエスメラルダを踊ることになっていて、先生も張り切っていた
本部にいたときは競争意識がすごかった。他の生徒やその親御さんからの冷たい目線も辛かった。
K市の支部はできたばかりでみんなのんびりとしていたのでそんな目線も感じなかったから気が楽だった。
その日は練習終わりに、彩子先生から、驚きの報告があった
『真穂。あのね。お母さんには先に話したんだけど、次の20周年コンサートの眠れる森のオーロラ姫、あなたに任せることにしたから』
『私ですか』
『頑張ってね、まぁ、お母さんの興味は、目先のコンクールかもしれないけど...』
『頑張ります。ありがとうございます』
主役をもらえたことは単純に嬉しかった
バレエ自体は嫌いじゃないのだ
ただ、踊らされている感覚になるときがある
母親はコンクールで賞を私に取らせることしか考えていなかったからだ
彩子先生もそれに気づいているようだった
そんなこともあり、あの頃の私は、心の底から踊ることを楽しんでいなかった
だけど、彩子先生からの主役抜擢は流石に嬉しかった
スタジオを出て、駅に向かって歩いていると、高校生の集団が前から歩いてきた
すれ違うと、そのうちの1人が急に声を出した
『長谷川さん!』
振り返るとその声の主は祥太だった
『平山くん』
『どうしたの?あ、バレエの帰り?』
一緒にいるのはよく見るとクラスの子たちだった
制服を着ていなかったからわからなかった
『うん』
『そうだ!俺らこれからファミレス行くんだけど、長谷川さんも行かない?』
唐突な誘いにビックリする
『え?』
『行こうよ。私も長谷川さんと話しがしたいよ』
『でも......』
迷っていると橋田恵里奈が一歩前に出た
『行こうよ。私も長谷川さんと話しがしてみたい』
『じゃあ、ちょっとだけなら』
その場にいたメンバーは声を出して盛り上がった
ノリで一緒にファミレスに行くことになってしまったが、私は母親にバレないように先に言い訳を考えていた
ファミレスではバレエをやっていること、おばあちゃんの世話でK市に来たことなどを話した
みんなとの距離がぎゅっと縮まった夜になった
誰かに自分のことを話すなんて初めてだった
帰り際に祥太は追いかけてきて、言った
『長谷川さん、今日は突然だったのに、ありがとな』
『ううん、楽しかった。ありがとう』
『また、遊ぼうな』
『うん』
あの日から、私の人生が少しずつ変わりだした
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